Barling's Make #1655 ExEL Saddle Apple (1950s)

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description:

ヴィンテージ・パイプのブランドには数多くあれど、その中でも特別な位置を占めるのがPre-Trans(1960年以前)時代のBarlingである。この個体はBarlingコレクターからは俗に「生Make」と呼ばれる、Barling's Makeのスタンプのみが押された一番ベーシックなスタンダードモデルである。1で始まる4桁のシェイプナンバーを持っていることから、Pre-Trans時代のヨーロッパ/英国国内向け製品であることがわかる。筆者にとっては初めてのBarlingであるが、エクステリアの状態は度外視してスモーカブルな個体を1本目としてチョイスしてみたため、外観はだいぶダメージが来ている。しかしそれでも、Pre-Trans Barlingの持つ素晴らしいスモーキング・クオリティと細部に至るまで独自の哲学が貫かれたエンジニアリングは、持つものに感銘を与えるのに十分といえる。

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Barling #1655 Saddle apple shape execution :↑

#1655 サドル・アップル。微妙な差異ではあるが、Barlingのシェイプエクスキュージョンには、他のメーカーには見られない独特のディティールが存在する。1.アップル系に顕著な、やや上に行くにしたがってすぼまるようなボウルターニング 2.シャンクの微妙なテーパー。 3.サドル部の非常に短いマウスピース基部 4.フル・フラットでベベルのないボウルトップ。これらの特徴はPre-Trans Barlingの職人たちがCharatanと同じく、機械を使わないハンド・ターニングでボウルを削りだしていたことに起因するものが多いと思われる。Pre-Trans Barlingはモダンパイプの基準で言えば、完全なハンドメイドの工程で作られたパイプである。Barlingのシェイプメイキングには、Comoy'sやLoeweのような精緻さ、エレガントさは見られず、どちらかといえば素朴、どちらかといえば質実剛健な趣がある。しかしシェイプから漂う重厚さと風格、そして掌に包んだときに感じられる柔らかな感触はこのメーカーの存在をやはり特別なものにしているといえるだろう。以上のような特徴もあいまって、非常に愛らしいサドル・アップルになっているといえる。個人的には大好きだ。

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Briar texture of Barling's Make:↑

樹齢百年以内のブライヤは使用しなかった(とりわけYe Olde Woodと呼ばれるディジグネーションを持つパイプには、さらに古い、樹齢二百年近い原木が使用されたとされる)と言われる、Pre-Trans Barlingのブライヤテクスチャ。グレインは自由自在にうねり、消えては表れる、古いアルジェリアン・ブライヤーに特有のパターンを描く。オリジナルのフィニッシュはプラム・フィニッシュ。とてもクラシカルでダークな、やや紫味の強いカラーであったようだ。
(下)近年のPeter Heschenに見られるような、ボウルの下部に行くにしたがって絞られた、円錐形のチャンバー。

 

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Engineering of Barling's Make:↑

驚異的にスムーズなドローをもたらす、Pre-Trans Barlingのエンジニアリング。注目すべきはマウスピース内の煙道の太さ。リップのアップを見ても、エアホール・スリットが他のメーカーでは見られないくらい大きく穿たれているのがわかる。Barlingのサドルビットは"Flat-Saddle Mouthpiece"という名の割にはやや分厚いが、これはコンフォートネスよりもエアフローを重視し、極太の煙道をマウスピース内に収めた結果だと見るのが正しいだろう。なお、エンジニアリングは素晴らしいの一言で、Mortise内部や勘合部には非常にソリッド&リジッドな質感を感じることができる。

 

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Pre-Trans Barling additional stamping:↑

(上)マウスピース下面のREGDのスタンプはRegisterd Design(登録意匠)の略で、ここではBarlingオリジナルの"Flat Saddle Mouthpiece"を示す。この他にもRegisterd No.を備えた個体や、単にBARLING DESIGNとスタンプされた個体も存在する。マウスピース下面スタンプと制作年代の関連性はまだ不明だが、Registerd No.付きのパイプはNo.を調べることによってある程度datingが可能。
(下)ExELはエクストラ・エクストララージの略であるが、呼称の割にはこのパイプはごく一般的なDunhill Group3程度のキャパシティしか持たない。現代のモダンパイプの基準で言えばノーマルサイズといったところ。Pre-Trans Barlingのサイズコードには、
SS(Small)
S-M(Small to medium)
L(Large)
EL(Extra Large)
ExEL(Extra-Extra Large)
ExExEL(Extra-Extra-Extra Large)
LF(Long Flat)
LLF(Long-Long Flat)
が存在する。ボウルキャパシティを表すDunhillのグループサイズとは違い、使用されたブライヤのサイズを指し示しているようである。そのため、全長が短いStacked BilliardなどでもExExELのサイズコードを持つことがある。

 

 

 

shape#1655 saddle apple
stem: handcut vulcanite "Flat-Saddle Mouthpiece"
junction: normal
color: plum
ornament:none
length: 139mm
height: 42mm
chamber dia: 18mm
chamber depth: 35mm
weight: 39g

nomenclature:
BARLING'S(arched, block)
MAKE(in upper case, block)
1655
MADE IN(in upper case, block)
ENGLAND. (period after D)
ExExEL
"Barling Cross" white hot stamp on the stem
REGD white hot stamp on the stem
DESIGN white hot stamp on the stem

note:
・ボウルトップ、リムに深刻なダメージ
・ボウル全面にスクラッチとハンドリングマーク多数
・ステム変色