Ben Wade Selected Grain 27W Dublin (c1938)

description:

非常に希少な、戦前のLeeds ProductionのBen Wadeの未使用品。付属していた当時のボックスとパンフレットがさらに資料的価値を高めている。このサンプルの存在により、ナチス・ドイツの爆撃によるファクトリーの焼失で名のみを残してパイプ史から消え去った悲劇のパイプメーカー、オリジナル・Ben Wadeの当時の製品の姿がかなり明確になったと言えるだろう。

さらに興味深いのは、このパイプがBercu Imports Ltd.というオハイオ州クリーブランドに存在した輸入業者の手によって米国国内で販売されていたパイプであるということだ。当時多くの英国メーカーがその主要市場として米国を最重要視していたのは周知の事実であるが、パイプ・キャピタルであるロンドンから遠く離れたヨークシャーの一地方都市にあった小規模メーカーまでもが、アグレッシブな輸出戦略を駆使していたことはひとつの発見といえるだろう。

パイプ自体は、1938年頃に生産されたとおぼしき、Leeds Productionの主力製品であるSelected Grainのダブリンである。Selected Grainはナチュラルステインのハイグレードパイプであり、Comoy'sのLondon Pride、SasieniのFour Dot Naturalに相当するグレードだと考えればいいだろう。随所にプレミアム・メーカーの一員としての、非常に高いレベルの製品への意識が感じられるパイプである。Ben Wadeは（言い方は悪いが）＜地方都市のダンヒル＞とでも呼べるようなクオリティを堅持していたメーカーだと言える。

 

Leeds Production Ben Wade dublin shape execution :↑

シェイプナンバー27Wと命名されたダブリン・シェイプ。少々素朴な印象を感じる。Leeds期のBen Wadeにはよくアルファベットが混在したシェイプナンバーを見かけるので、Wはモディファイヤではなくこういった固有ナンバーであったのではないかと思われる。Pre-Trans Barlingを思わせる、なだらかなカーブを描いてリップにつながるステムの造型はLeeds ProducitonのBen Wade特有のものである。

 

Briar texture of Leeds Production Ben Wade:↑

さすが上級グレードだけあって、完全クリーン、ノーサンドピット、ノーフローを誇る美しいSelected Grainのブライヤテクスチャ。アルジェリアン・ブライヤとおぼしき不均等で渦を巻くようなグレインパターンが印象的である。ブライヤ表面のワックスまで手付かずで残存しており、製作当時の姿をほぼ完璧に伝えている。

 

 

Leeds Production Ben Wade Detail & Engineering:↑

（上）リップ外周が滑らかにラウンディングされたリップ。こちらは1920年代から大戦直前まで、Ben Wadeの特有の個性となっている。

（下）1920年代のパイプには存在した、Alfred Dunhillのものに酷似したINNER TUBEのは付属していなかったが、マウスピースの煙道内には段差が存在し、この時代になってもチューブの使用は継続されていたと考えられる。このサンプルからは何らかの理由でチューブが外されて保存されていたと思われる。フィッティングの質は非常に高く、特にべべリングなどの工夫は見られないものの、モーティス先端がドーム状に加工されているなど、細部への意識の高さが窺える。

 

 

Leeds Production Ben Wade additional stamping:↑

Leeds ProducitionのBen Wade固有の、シルク・ハットの紳士のプロフィールを上部に据えた楕円メーカーマーク、"SELECTED GRAIN"のグレード名、そして誇らしげにLEEDSと刻まれたP.O.S。シャンクファーサイドのジャンクション近くにはハートマークが刻印されているが、これが何を指し示しているかは不明。また、1920年代のパイプには見られない、ステム上面のホット・スタンプによるBEN WADEのロゴがある。これは名義が買収された後のCharatan製Ben Wadeによく見られるディティールであるが、Family Eraのこの時期から既に使用されはじめていたことが分かる。

 

 

Ben Wade Leeds Production, Box and literature:↑

（上）ボウル内にはプライス・タグを剥がした跡が残存している。ステムを外したときにはまだ製作当時のブライヤ屑が内部に残っているほどだった。これほどのサンプルが入手できたのは非常に幸運と言えるだろう。

（下）付属していたボックス。側面のグレード及びシェイプを見る限り、このパイプのものではなく下位グレードのWalnutのものであったことが分かる。おそらく（現在でもパイプを購入するときにしばしば行われるように）小売店で適当なボックスがあてがわれたためだろう。箱の正面にはMADE IN ENGLAND FOR OVER 70 YEARSの文字があり、創業から数えて70年、すなわち1930年以降のボックス・デザインだということがわかる（一緒に付属していたパンフレットにはNearly 80 yearsの文字があるので、1930年代後半の製作であるとピンスポットで判定できる）。箱はもちろん貼箱であり、組み合わせ方法も印籠風になった非常に凝ったもの。