Dunhill Bruyère 53 Bent “INNER TUBE” Patent (1918/10/21-year's end)

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description:

このパイプは非常にレアなパイプかもしれない。

第二次世界大戦中、Duke StreetにあったAlfred Dunhill Ltd.がドイツ軍の爆撃を受け、店舗正面が手ひどく破壊された時、瓦礫の片付けが終了するとすぐさまアルフレッド・ヘンリー・ダンヒルはテーブルを店の前に引き出してロンドンのパイプスモーカーの需要に答えた、というのは有名なエピソードである。しかし、そのとき同時に、Alfred Duhillの戦前の貴重な資料や記録が失われたそうである。ある一枚の小さなメモ・カードはこの時の難を逃れ、辛くも引き出しの裏に落ちていたところを発見されるが、それは最初期のDunhillのパイプのdating法を詳細に記したスタンプの記録メモだった。この小さな奇跡のおかげで、現在の我々も、最初期のDunhillの製作年代をかなり細かく知ることができる。

そのメモによれば、DUNHILLとLONDONが同じ幅で刻印されたメーカーマークは、1918年10月21日から1918年年度末の、僅か約一ヶ月の間にのみ生産されたパイプであるという。しかし、このパイプはそれに加え1922年以降から使用されるはずのdate codeを備え、ビットスタイルも20年代になってから出現する"comfy"スタイルである。このことを加味すると、このパイプは1918年後半に生産されるがそのままファクトリーに在庫として残り、1923年になってからマウスピースを新たにフィットされたのち、保証期間を示すdate codeをスタンプされてショップに並んだのではないかと想像できる。

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Alfred Dunhill 53 shape execution :↑

この時代のDunhillの一連のベントは単なるサイズバリエーションではなく、シェイプごとに個性を打ち出しているのが特徴である。このシェイプ53もスタンダードなベントでありながら、細身のシャンク、丸みを強く帯びたボウルシェイプなど、単なる56のダウンサイズモデルではないことは明らかだ。戦前のDunhillが1930年代に完成させる、優美でありながらも力強いシェイプの印象はまだここには見られず、やや古くさい野暮ったさすら感じさせるが、そこがまたたまらない魅力でもある。

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Briar texture of Shellbriar in '60s:↑

オールドカラーと呼ばれる、戦前のBruyereに特徴的なステイン。このステインはオリジナルはもっと色が濃く、暗いプラムカラーのような色であるが、使用と共にステインが脱色し、このサンプルのようにグレインパターンを浮き立たせていくのが常である。Alfred Dunhillが有名になると同時に、このダークレッド・ステインはロンドンのパイプスモーカーの間でクオリティの指標となった。

(下)少数の例外を除き、フルフラットなリムがAlfred Dunhillの特徴である。少々インナーリムにダメージが散見されるが、非常に良い状態で保存されている。

 

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Engineering:↑

(上)INNER TUBEはこの個体では廃棄されたらしく付属しない。素晴らしいフィットと精度を持つジャンクション部分。

1920年代初期に導入された、それまでのビットが丸みを帯び、リップ自体の幅も狭いセミ・オリフィックボタンのマウスピースではなく、ドラスティックに薄型化されたビットを持ち、リップもほぼモダン・リップと同等の形状となった"Comfy"マウスピースである。モダンスモーカーにとっては抵抗無く銜えられる、実用性が非常に高い形状で、煙道開口部、ファンネル形状ともに申し分ない。"Comfy"マウスピースの導入は1922年ごろではないかと想像される。

 

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Stamping & Date Code:↑

(上左)ABruyereフィニッシュを表す短縮コード(※2)となるが、それは1930年のROOTの導入以降の話である。この年代では大文字の"A"は<Aクラスブライヤーを使用している>といった程度の意味を持つ。ちなみに"A"スタンプにはバリエーションがあり、円に囲まれたもの、ピリオドつきのもの、小さなoのようなピリオドを持つもの、小さな四角形のようなピリオドを持つもの等が確認されている。この差異をサブグレードとして捉えるエキスパートもいるが、J.C.Loring氏によると当時のカタログにはDR、Bruyere、Shell以外のグレーディングまたはサブグレードの存在は見られないため、このスタンプの差異は単なるスタンプのバリエーションだと考えられるという。このサンプルのスタンプはoのようなピリオドを備えている。上下逆にスタンプされた126はおそらくデスティネーション・コードで、納入先を示したスタンプだと思われるが詳細は不明。

(上右)1918年10月21日から18年年度末に使用されたDUNHILLとLONDONが同じ長さのスタンプ。date codeの存在からこのパイプの販売年度が1923年であることは明らかではあるが、こちらはおそらく後年になって再スタンプされたものだといえる。

(下)Alfred Dunhillは1921年『ホワイト・スポット・ギャランティ』を導入し、1年間のボウル本体のバーンアウトなどに対する保証を行ったが、その際にパイプの製作年度を同定するためのしかけが必要となった。こうして導入されたのがAlfred Dunhillのパイプをパイプ界で最もコレクティブルにしている要因の一つでもある、Date Codeである。Date Codeは1921年の終わり頃に導入され、アンダーラインのついた小さな数字がP.O.SまたはPatent No.の後ろに刻印されることとなった。このサンプルはアンダーラインつき3Date Codeを持ち、1923年の出荷であることがわかる。PATENTED MARCH・9・15のパテントナンバーは1915年から1923年の間に使用されたものである。

 

 

 

shape #53 bent billiard
stem: vulcanite
junction: normal
color: dark plum
ornament:none
length:141mm
height: 40mm
chamber dia: 19mm
chamber depth: 36mm
weight: 32g

nomenclature:
Ao
126 (reverse stamp)
/
DUNHILL(D without tail)
LONDON (same length as Dunhill)
/
MADE IN ENGLAND 3(undelined)
"INNER TUBE"
PATENTED MARCH・9・15
/
53

white ivory dot on the stem

note:
・トップに小さなハンドリングマーク
・ステインやや退色

(※1)INNER TUBE刻印は、INNER TUBEが導入された1912年から刻印されるようになるが、後年(1917年)に導入されたshellには刻印されることはなく、スムースフィニッシュのみのスタンプである。このスタンプは1932年中に廃止されるが、それ以前にもシェイプの関係でINNER TUBEが装着されないパイプには刻印されることはない。

(※2)フィニッシュコード"A" (と"R")は、1950年までブランドネームサイド、それ以降はPOSサイドに刻印される。