Barling's Make Benjamin Pot(1947-1952)

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description:

Pre-Trans Barlingの未使用品を手に入れることは、コレクターにとってはいつでもひとつの事件となりうる。未使用Barlingはebayでも非常に高価になり、コストパフォーマンスという言葉は無いも同様といわざるを得ないが、単なるコレクションとしてだけではなく、年月とともに曖昧になってしまうパイプの美点を測る上での、資料としての価値には替えられない。後述するがこのパイプにはオリジナルと思しきボックスも付属していて、datingのサンプルにもなっている。使い込まれた個体では直に伝わってはこない在りし日のBarlingファームの、現代風に言えばエンスージアスティックなパイプメイキングへの姿勢がよくわかるサンプルである。

パイプとしては小ぶりな、Pre-Trans Barlingが得意としたPotである。グレードはBarling's Makeのみのスタンダード・サンドブラスト、つまり何の変哲も無い当時の普及価格帯のBarlingということになるが、非常に高い細部への意識、独特のシェイプ感覚を持ちながらも非常によく練られた使い勝手、そしてパイプ界でも最高クラスのサンドブラスト・フィニッシュなど、普及価格帯のグレードであることを疑いたくなるようなパイプである。

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Barling's Make Pot shape execution :↑

やや前方に向かって全体がスラントし、ヒール前部が大きなアールを描く、Barling独特のPotボウルのエグゼキューション。これはPotという一見マッシブで無骨なシェイプに、一種独特の風格とエレガントさを付与している。ビットは名高いFlat Saddleではなく、コンサバティブなテーパー・ビットであるが、Barlingのテーパービットのクオリティは非常に高い。マイルド・フィッシュテイルタイプでありながらもComoy's系の優美な曲線を描くタイプではなく、シルエットはAlfred Dunhillの男性的なストレートビットに近く、デザイン的なまとまりも高次元で、使い勝手とシェイプの簡潔さにも多大に寄与している。ビット全体の角度が僅かにホップアップしていることも見逃せない。全長140mm程度の小型のパイプであるが、ざらにあるPotとは一線を画した形状の面白さが多数詰まっているパイプだ。

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Briar texture of Barling's Make:↑

じっくりと写真をご覧になっていただきたい。素晴らしいブラストテクスチャというほかはない。決して大きなパイプではないにもかかわらず、これほど深く、これほどディテイルドなブラストを備えるということから、いかに細心の注意を払って処理されたかがよくわかるのではないだろうか。

Fossilに代表されるBarlingのサンドブラストは(木質が柔らかいと言われるアルジェリアン・ブライヤーという素材によって)偶然生まれたわけなどではなく、完全に意図的な生産物であると思う。Pre-Trans Barlingのクラフトマンはこのような深くクラッギーなブラストに強烈な存在意義を感じていたからこそ、それに必要とされる膨大な手間を安んじて支払っていたに違いない。そしてそのブラストワークが、Fossilだけに留まらず、このようなスタンダードBarlingにまで及んでいることを知れば、そのあまりにも高潔なプライドに対して誰しも尊敬の念を覚えざるを得ないだろう。

一番下の写真に表れたブラストの表情には、これこそFossilという呼称が相応しい。峻烈な山肌を思わせる表情である。

 

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Engineering of Barling's Make:↑

細心のディティールに対する意識が窺えるエンジニアリング関連のショット。リップからボウルの先まで、一切の妥協がないこのクラフトマンシップにこそ、Pre-Trans Barlingの高名さの理由がある。リップ部の芸術的と言っても過言ではない造形に注目。

一番下の写真は未使用品のボウル内部を写した貴重なショット。ボウル内部はかなりラフなテクスチャで、ターニング時にボウルを固定したクランプの跡を見ることができる。カーボナイズ処理や保護ペースト塗布などは行われてはおらず、黒い色はステインによるもの。

 

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Pre-Trans Barling additional stamping:↑

スタンプ類のアップ。デザイン化されていてJがZにも見える、BENJAMINのロゴ刻印は詳細は不明だが、タバコニストのロゴである可能性が高い。このパイプはBarling's Makeのメーカーマークとこのロゴ以外に、サイズコードはおろかP.O.Sも認められない。

 

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Pre-Trans Barling additional stamping:↑

パイプ本体と同様にシェイプナンバー欄が空白となっているオリジナル・ボックス。Barling's Make用にはYe Olde Woodラインとはまた異なった、プラムブラウンのシンプルなデザインのボックスが用意されている。5年毎に更新されていたとおぼしき蓋の裏書の年数の箇所は135 years standingで、このパイプが1947年〜1952年の期間に製作されたことの証明となっている。英国国内向け販売のボックスは、輸入業者の手による裏蓋にMADE IN ENGLANDの青インクのスタンプを欠いていることに注意。

 

 

 

shape: N/A pot
stem: handcut vulcanite
junction: normal
color: dark plum
ornament:none
length: 140mm
height: 40mm
chamber dia: 20.5mm
chamber depth: 35mm
weight: 35g

nomenclature:
BARLING'S(arched, block)
MAKE(in upper case, block)

BENJAMIN(logo)


Barling Cross logo hotstamped on the stem

note:
・未使用品