Dunhill Root Briar 320 "Opera Pipe" Patent (1933)

pic01

description:

1928年に初代アルフレッド・ダンヒルが事業より引退したとき、その後を引き継いだのはアルフレッドの三人の息子たちだった。アルフレッド=ヘンリーはロンドンの店舗を受け持ち、ジョンはパリの店舗を引き継いた。そして、パイプファクトリー及びパイプ製作の指揮を担当したのがヴァーノン・ダンヒルである。

1930年に発表されたDunhill Root Briarはそんな代替わりしたAlfred Dunhill Ltd.の象徴的なフィニッシュである。それまでのクラシックなBruyere、斬新だがウルトラシックなshellとは異なり、コルシカン・マウンテン・ブライヤーを原料とし、ブライヤーの木目が直ちに明らかになるナチュラルフィニッシュを纏い、さらに登場時にはナチュラル・ステインとシームレスな印象を持つ茶色x赤のブリンドル・バルカナイト製マウスピースを備え、そしてヴァーノン・ダンヒルの発明になるハンドカット・アルミニウム製の"Clicker Tenon"を内蔵していた。このゴージャスな出で立ちは当時としてもセンセーショナルであったことは想像に難くはなく、Root Briarは以後Alfred Dunhill Ltd.のトレードマーク・フィニッシュとなり、Clicker Tenonやブリンドル・バルカナイト製マウスピースを廃しながらも現代にまで至る77年もの長きに渡って、Alfred Dunhill Ltdのフラッグシップグレードの座を保持し続けている。

このサンプルは1933年製Root Briarのショートオーバル・ヴェストポケットパイプ、いわゆるオペラ・パイプ、320である。このシェイプ名は、コンパクトな全長と楕円形のボウルは、タキシードのベストのポケットに忍ばせ、オペラ観劇の幕間に一服するのに好適なかたちをしていたところから来ている。後年は"Dress"グレード(Black Bruyere)の象徴的シェイプとして有名になった320であるが、1920年代には原型となるQuaint shape、FSが登場していた。このRoot Briar 320も、Root Briar登場時のこのフィニッシュの正確な姿と、当時のラグジュアリーなパイプライフ・スタイルを同時に現代に伝えている。

pic02 pic03 pic04
pic05 pic09

Alfred Dunhill 320 shape execution :↑

後年"Dress"グレードの象徴的シェイプとなる、"オペラパイプ"、シェイプ320。本当にコンパクトなパイプである。1970年代にはラウンドリムが一般的であるが、60年代ぐらいまではこのRoot Briar 320のように、エッジの鋭いフラットトップ・リムを備えていた。意外にシャンクが太く、美しくハンドターニングされた丸みを帯びたボウル、この時期のDunhillに見られるややふっくらとした曲線を描くステムエクスキュージョンも相俟って、単純に機能的パイプとして見るだけではなく、造形的な美しさでチョイスしたくなるような魅力的なシェイプである。

pic06 pic07 pic08

 

pic10 pic11 pic12

Briar texture of Old Color "Bruyere":↑

後年はオレンジベースのナチュラルフィニッシュの印象が一般的となったRoot Briarだが、登場時のオリジナル・フィニッシュは大分それとは異なっている。アンバーブラウンに近い色の濃いステインを持ち、コンビネーションされるブリンドル・バルカナイトのマウスピースはまるでKaywoodie All Briarのような、パイプ全体がブライヤーで構成されているような錯覚を与える。後年のDunhillのフィニッシュ、Amber Rootは初期のRoot Briarをモデルにしたと言われるが、それが素直に納得できるようなフィニッシュである。Bruyereよりもグレインが分かりやすいフィニッシュのため、Root Briarはこの時代以降、徐々にグレインの美しさを志向してゆく。

 

pic13 pic14 pic15

Engineering:↑

(上)このサンプルはパイプのサイズのせいか、コンベンショナルなプッシュビットを備える。"Vernon Tenon"は使用されていない。

(中)こに時代特有の、やや楕円を帯びた幅の狭いボタン。

(下)非の打ち所が無いコンセントリシティとエンジニアリング。

 

pic15

Stamping & Date Code:↑

(上左)RはRootを表す短縮コードである。この時代はメーカーマーク(DUNHILL LONDON)側に刻印される。

(上右)1922年以降、標準的に使用されるメーカーマーク。

(下)この時代のアメリカ向けPatent刻印はPAT No.1343253/20が標準的であるが、このパイプはU.S.PATENT 1343253/20の刻印を備えている。1927-1933の間と、1937-1941の間に使用された。P.O.Sの右にはアンダーラインつきの13のDate Codeが刻印されているのがわかる。

 

pic16

“Bowling Bowl Bit”:↑

ブリンドル・バルカナイトにはCumberland Mouthpieceという呼び方もあるが、これはやはり初期のRootは同じく後年のフィニッシュ、Cumberlandが、当時Alfred Dunhill Ltd.のCumberlandにあったファクトリーから発見された1930年代のRootのデッドストックのブリンドル・バルカナイト・マウスピースに倣ったせいである。またこのステム素材はそのテクスチャから、コレクターの間では"Bowling Ball Bit"と呼ばれることが多い。

なお、登場当時のブリンドル・バルカナイト素材は現在作家物などに採用されているものよりも、テクスチャのコントラストがかなりマイルドなことに注目。

 

 

 

shape #320 Oval Vest Pocket "Opera"
stem: Brindle Vulcanite ("Bowling Bowl Bit")
junction: normal push tenon
color: dark amber natural
ornament:none
length:116mm
height: 34mm
chamber dia (long): 17mm
chamber dia (short): 23mm
chamber depth: 31mm
weight: 24g

nomenclature:
R
/
DUNHILL(D without tail)
LONDON (shorter than Dunhill)
/
MADE IN ENGLAND 13(underlined)
U.S.PATENT 1343253/20
/
320

white ivory dot on the stem

note:
・メーカーマーク周囲にスクラッチ
・ニアミント