Dunhill Bruyère 341D Author “INNER TUBE” Patent (1926)

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description:

筆者はAuthorシェイプ・コレクターである。AuthorにはSasieni AshfordComoy #256などの美しいシェイプが揃っているが、今までなかなかこれといったものにめぐり逢わなかったDunhillのAhthorを、1920年代、それもunsmokedという一種奇跡的な条件で入手することができたのでここに紹介する。

このDunhillのAuthorは、1926年製Bruyère、シェイプ341D。非常にマッシブなAuthorで、戦前のDunhillに特徴的な太く急にテーパーするステムが、非常にクラシックな雰囲気を醸し出している。深く紫味の強いステインで染め上げられたBruyèreのold colorもひどくクラシック。現在で言うGroup 4程度のキャパシティを持つ非常に美しいパイプである。このような典型的な20年代のサンプルを、unsmokeで入手することができたのは非常にラッキーだったとしか言いようがない。

もちろん状態はパーフェクト。ファクトリー・クリスプなシャンク刻印と、Ivory dotRegistered No.付きステムに加え、もちろんPatent No.が刻印された"INNER TUBE"も手付かずで備えている。そのレアなシェイプや、ジュエリー・クオリティとも呼ばれるクラフトマンシップ、そしてダンヒルの伝説的なオイル+ガスヒーティング・キュアリングの痕跡を残すボウル内部も含め、創成期のAlfred Dunhillが如何ような意志を持ってパイプ製作に携わっていたのかを如実に物語る、まさにヒストリック・サンプルである。筆者のAuthorコレクションの中でも究極の1本。

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Alfred Dunhill 341D shape execution :↑

1920年代、Alfred Dunhill Ltd.は顧客の要望に沿って製作した一連のOwn Designシェイプの中から、特に人気のあるシェイプを選び、Quaint Shapeとしてレギュラー化させた。その中にあったのがAuthorのシェイプCKである。このようにCKの起源は古く、Alfred Dunhillの最初期から存在すし、すでに1923年のAbout Smokeにもその姿を確認することができる。

これら1〜3文字のアルファベットをシェイプ名として持つQuaint ShapeはDunhillコレクターからLetter Shapeと呼ばれるが、1920年代半ばから30年代の間、Bruyèreに限り、Quaint Shapeにも三桁の数字からなるシェイプナンバーが割り振られた(※1)。つまりこの期間、同じあるquaintシェイプでも、shellにはLetter shapeBruyèreには三桁ナンバーが割り振られていたということになり、この341DCKのBruyère用ナンバーということになる。

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Briar texture of Old Color "Bruyère":↑

素晴らしく深く美しい、戦前のBruyère特有の、Old Colorと呼ばれるプラムレッド。80年もの時を超え、今だ宝石のような輝きを放つ。思わず見入ってしまうような美しさである。ただ、同じ20年代のプラムレッドでも、やや色合いにばらつきはあるようである。この個体はかなり紫味が強く、パープルレッドといってもいいような色合い。このCK/341Dのような複雑な曲面が多いパイプはレイズターンできる個所が少なく、ほぼパイプ全体に渡って、クラフトマンのハンドターニングの手が入っていると思って間違いない。ジュエルクオリティとも言える、滑らかなブライヤー表面の処理にも注目。

 

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Dunhill Patent Process "carbonized bowl":↑

Dunhillのブライヤー処理と言えば一言目には「オイルキュアリング」ということになるが、ダンヒルの特許プロセスにおいては、ガスヒーティングシステムによる加熱処理がその中核を占め、オイル処理は補助的な位置に留まっていたということがよくわかる、1920年代のダンヒルの、未使用状態のチャンバー内部。黒く見えるのは保護材ではなく、加熱処理で黒くカーボナイズされたブライヤー表面である。なお、チャンバー内部にもプラムレッドの染料がしっかりと掛けられていてうっすらと透けて見えることにも注目。

 

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Engineering & &INNER TUBE”:↑

(上)Patent No. 1130806/15"INNER TUBE"概観。

(中)"INNER TUBE"の差しこみ方を表したショット。ステム挿入時のクリアランスのため、テノンは大きく開口され、中で"INNER TUBE"が動けるだけのかなりの余裕がある。"INNER TUBE"が曲げ加工がなされ、リップ直前の位置まで深く挿入されるところに注目。"INNER TUBE"に刻印されるPatent No.はシャンクのものとは異なり、英国内特許のPAT.No5861/21のままである。

(下)非の打ち所が無いエンジニアリング。"INNER TUBE"不使用時を考慮したのか、テノン開口部にべべリングが見られる。ビット部はこの時代特有のやや厚みがあるもの。ステムにインレイされるWHITE SPOTはアイボリー(象牙)製で、象牙特有のやや赤みを帯びる変色が見られる。ステム裏側にはREGD No 654638のホットスタンプがはっきりと確認できる。

 

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Stamping & Date Code:↑

ファクトリー・クリスプなスタンプ類のアップ。この刻印がDunhillの工房で打たれてから80年が経過しているが、まさに昨日刻印されたといっても通るような鮮明さである。

(上左)短縮フィニッシュコードはAに小さなoのピリオドが付随したもの。

(上右)メーカーマーク(DUNHILL LONDON)は、Dの文字にヒゲがなく、「LONDON」が「DUNHILL」より短いもので、この刻印は1922年以降〜1949年まで使用された。

(下左)Patent No. 1130806/15は、1924年から1926年の3年間のみ使用された、米国内向け特許番号である。P.O.S刻印の右にはアンダーラインつき6のDate Codeが見られるため、このパイプは1926年製と明瞭に同定できる。

(下右)シェイプナンバー341D。末尾の<D>は何らかのモディファイヤーであると想像できるが、どういった意味を持つものかは不明。

 

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Alfred Dunhill Bruyère Pipe Packaging:↑

(上)これはこの341Dに付属してきたオリジナルボックスではないが、同年代のものである。Bruyèreのカラーとお揃いのプラムカラーの、1920年代当時の雰囲気が濃厚に感じられるデザイン。箱下面には、シェイプのイラストが貼付され、一目でシェイプがわかるようになっている。なおこの箱を見て想像するには、当初Bruyèreはフィニッシュ名を表す単語ではなく、単なる「ダンヒルのブライヤーパイプ」といった意味ではなかったのではないだろうか。それがshellrootの登場によりフィニッシュ名としての意味付けがされていったように筆者には思える。

(中)さらに珍しい、同時代のDunhill shopで使用されていたとおぼしき、Dunhillのメーカー名入りのラッピングペーパー。下はDunhill Pipe Bowl Preservative(パイプボウル保護ワックス)のサンプル缶で、お試しとしてミニ缶がパイプに付属していたようだ。

(下)"INNER TUBE"のスペアパックを含む、当時のパッケージングを再現してみたショット。プラムカラーのフェルトスリーブのみ、この341Dに付属していたものである。ボックス蓋内部には"INNER TUBE"のインストラクション、ボックス内部にはTHE WHITE SPOT GUARANTEEの保証書が貼付されていることに注目。

 

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Comparison to 1971 Dunhill CK:↑

1971年製 Bruyère CKとの対比。341Dのヘビーなステムと鋭角なベンドがやはり目立つ。戦後の明るいレッドステインとの対比にも注目。

 

 

 

shape #341D Author
stem: vulcanite
junction: normal
color: dark plum
ornament:none
length:129mm
height: 37mm
chamber dia: 22mm
chamber depth: 32mm
weight: 45g

nomenclature:
Ao
/
DUNHILL (D without tail)
LONDON (shorter than Dunhill)
/
MADE IN ENGLAND 6 (underlined)
"INNER TUBE"
PATENT No 1130806/15
/
341D

REGD No
654638
bottom side of the stem

PAT.No5861/21
on inner tube

white ivory dot on the stem

note:
・オリジナル・フェルトスリーブ付き
・未使用、パーフェクト。

(※1)この他にもLBに対して与えられた472、EKに対して与えられた349、FEに対して与えられた358等の例がある。やはり三桁ナンバーはBruyèreにのみ適用され、shellには従来からのLetter Shapeが使用された。