Dunhill Shellbriar R/7 Pot-billiard Patent (1933)

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description:

繰り返しになるが、最初期のAlfred Dunhillのデューク・ストリートの店舗では、あたかもタバコにおけるMy Mixtureシリーズと同じく、顧客はパイプも自分の好みのデザインでカスタム・オーダーをすることが可能だった。(あまり触れられることがないが、現在のパイプ作家がカスタムオーダーに応じるのと全く同様なことが既にAlfred dunhillでは80年前から行われていたのである。勿論当時の老舗、BBB、Comoy's、Barlingなどの常識からすれば、これは全く新しいサービスであったに違いない。)そのカスタム・デザインはOwn Designと呼ばれ、その中でも人気があり実用性も高かったデザインはカタログに載って一般にも販売されることとなった。これがすなわち1920年代になって登場するQuaint Shapeである。

Quaint Shapeは当時の(Dublin、Billiard、Bent、Cuttyといった前時代のクレイ・パイプのシェイプを模したものがほとんどであった)パイプ・シェイプに、多くのバリエーションを追加した。現在クラシックとして伝わるシェイプの中に、DunhillのOwn Designが発祥と考えられるものを数え上げて見れば多くの人が驚きを禁じえないだろう。スクワットブル、ローデシアン、アップル、フォアスクエア、オーサー etc…。そしてそのデザインは容易く、流行に敏感な当時のスモーカーによって最新のモード・最新のトレンドと見なされ、多くの他のメーカーによってコピーされることになった。ひらたく言えば、Quaint shapeはクラシック・シェイプを変革したのである。その影響力と伝播を考慮すれば、この変革は1960年代のデニッシュ革命にも十分比肩されうるものであったといっていい。

後年Potという名称で呼ばれることになるこのシェイプRもそんなQuaint shapeのひとつであるが、この戦前期のサンプルはいわゆるPotとは少々趣が異なっていることに気付かれる方も多いのではないだろうか。すなわちそれは、このRというシェイプがそれまでのパイプシェイプに存在しなかった、(おそらくは顧客の注文だった)ショートレングス、大容量ボウル、良好なハンドリング特性といった要求を実現するべくさまざま既存シェイプの長所を取り入れていった過程をまざまざと表しているからに他ならない。Alfred DunhillはこのシェイプRで後年典型的となるPotシェイプ(Comoy #126、GBD#789などのラージボウル・ポット)を代用したため、DunhillのPotと言えばこのRということになるが、厳密にはPot-Billiardとでも言うべき非常に複雑なコンストラクションを持つ、Quaintという呼び名に恥じない特異なシェイプである。

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Alfred Dunhill R shape execution :↑

一見するとさしたる特徴もない地味なシェイプであると考えがちであるが、そこに込められた意匠の多彩さを知れば驚きを禁じえない。真横から見たヒールの形状は、ラウンド・ヒールを持つビリヤード・ボウルを短縮化したものではなく完全に新規のデザインであり、上へ行くにしたがって微妙にフレアしたボウル形状には容易にダブリンの影響を発見することができる。ショートレングス、大容量ボウル、良好なハンドリング特性といった要求を高い水準で結合させた非常に実戦的なデザインであると同時に、非常に前衛的なシェイプであると言っていい(クラシックシェイプ、それもPotが前衛的とは!)。長めのシャンクにはリバプールのテイストさえも入り込んでいる。言うまでも無く非常に使いやすく吸いやすいパイプであり、筆者のパイプラインナップの中でも過去現在あらゆる時代を通じて最強クラスのハンドリングを誇る。後年、1960年代にもなるとややこの前衛性は薄れ、普通のPotに近い形状になるが、(一般的なPotより)ややスレンダーなボウル形状、大口径に過ぎないチャンバー、適度にマッシブで信頼感のあるシャンクなどは時代を通じてRの特徴であり続ける。

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Briar texture of 1930s Shellbriar:↑

非常に有機的なバーズ面をフィーチャーした1930年代のシェルブライヤーのブラストテクスチャ。shell特有の、シェイプアウトすら辞さない大胆なブラストは非常に魅力的である。20年代に比べるとクラッギーさでは比較にはならないが、シャンクの外見上のアラインが破壊され、ボウル厚がランダムに変化するほどブラストがアグレッシブに掛けられていることに変わりはない。この波のように大きくうねったリムはPatent期shellbriarの見どころの一つ。

 

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Engineering & Details of Bruyère:↑

(上)インナーチューブが折れてシャンク内に残存しているが、良好なエンジニアリング。

(下)1920年代に比べれば、ビット部の厚さは大幅に減少している。深く広く切られたV字ファンネル部。

 

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Nomenclature & Stamping:↑

(上)シェイプレター、Rとインナーチューブサイズ/7の刻印。

(下)中央部の刻印が薄いが、PAT.Nos 119708/17&116989/17のいわゆるダブルパテント刻印。date codeはアンダーライン付きの13で、1933年製作を示す。

 

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Destroyed alignment by aggressive blast:↑

パワーのあるブラストによって、シャンク/ステムジャンクションの見かけ上のアラインメントが破壊され、シャンクが湾曲しているように見えることに注目。(もちろん内部煙道のアラインメントは精妙なままである。)

 

 

 

shape: R pot
stem: Vulcanite
junction: normal push tenon
color: dark plum blast
ornament:none
length:132mm
height: 42mm
chamber dia : 24mm
chamber depth: 35mm
weight: 36g

nomenclature:
R /7

DUNHILL'S "SHELL" MADE IN ENGLAND
PATENT Nos 119708/17&116989/17 13(13 undelined)

white dot on the stem(replaced)

note:
・ホワイトスポット欠落(補修済み)
・インナーチューブが破損してステム内に残存 ・バイトマーク(補修済み)