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Ye Olde Woodにはナチュラルカラーと濃いプラムカラーの二種類のフィニッシュが存在し、1935年当時では通常のBarling's Makeのほぼ5割増の価格で販売されていた。その独特な名前の響きと伝説的なスモーキング・クオリティで知られる、Pre-Trans Barlingの代表的なモデルである。
Pre-Trans Barling ファームのシェイプ・ラインナップにはベントパイプはかなり少ないことは前にも書いた。このサンプルはそんなBarlingのベントパイプの中でも非常にレアで、ユニークな風格の406ベントアップルである。ExEL(エクストラ・エクストララージ)のサイズコードがアサインされてはいるが、ExExELでもおかしくないPre-Trans Barlingにしてはかなり大柄なパイプである。卓越した技術をもつBarlingファームの中でも、特に熟練工によって作られたと思しきそのスタンメルはハンドターニングと思えないほどの精度を持ち、複雑なパターンを描くクロスカットのグレインと美しいナチュラルフィニッシュとも相俟って、Pre-Trans Barlingに特有の重厚な迫力を持っている。さらにBarlingエンスージアストの間で珍重される、T.V.F.ディジグネーション(※2)を備えた非常に印象的な1本。
Nichols shape No. 406 1/4ベントアップル。全くユニークな、非常にBarlingらしいとしか言いようのない素晴らしいシェイプである。Pre-Trans Barlingに特有な、ボウル上部に向かって窄まっていくボウルを持つアップルシェイプを、そのまま無理矢理ベントさせたかのような未完成の荒々しさと、それを強引に美しさの枠内へと収めてしまう流麗な曲面処理は、Barlingの職人たちの手業の中から生まれた、切れば血の出るような迫力のあるデザインセンスの存在を明確に感じさせる。
近年のベントパイプには見られなくなって久しい、鋭角にベントしながらも優美さを失わないテーパードステムもクラシックなテイストが十分。フラッグシップグレードらしく、ハンドターニングとしては驚くべき工作精度の高さも併せ持つ。
Sasieniと同じくPre-Trans Barlingも、ストレートグレインで知られたメーカーではない。(一部のグレードは除く) しかし非常に複雑で立体的なうねりを描くグレインと、黄金色に染め上がったナチュラルのステインはフラッグシップ・グレードとして必要にして充分であると言える。ブライヤー表面の状態は非常に良好だが、数箇所のハンドリングマークがあるのは非常に残念。
(上・中)丹念に仕上げられたPre-Trans Barlingのエンジニアリング。なお、筆者の手持ちのベントパイプ二本は、tenonへのべべリングが施されていない。
(下)定評のあるアメリカのリペアマン、NightOwlsPipeworksのRonnie Bikacsan氏は、『パイプのエアフローはリップから1インチまでの部分で90%が決まる』と語っていたが、その言葉を過去の時間の向こう側から証明するような、巨大なリップ部の開口部に注目。スムーズなエアフローを保証するポイント。また、Flat Saddle Mouthpieceとはがらっと異なり、Barlingのテーパードステムのビット部は非常に薄く、快適なのも特筆に価する。サドルステムはフラットさで、テーパードステムは薄さで、それぞれ快適性を目指しているのがBarlingのビット工作の要諦であるように思える。
ファクトリー・クリスプなスタンプエリアのアップ。MADE IN ENGLANDのP.O.S.はDの後ろにピリオドが付いている。このパイプはテーパードステムなのでRegisterd No.は刻印されない。
shape: #406 bent apple
stem: handcut vulcanite
junction: normal
color: natural
ornament:none
length: 138mm
height: 43mm
chamber dia: 20mm
chamber depth: 33mm
weight: 54g
nomenclature:
BARLING'S(arched, block)
MAKE(in upper case, block)
YE OLDE WOOD
406
T.V.F.
MADE IN
ENGLAND. (period after D)
ExEL
Barling Cross logo hotstamped on the stem
note:
・ハンドリングマーク少々
(※1)Ye Olde WoodはThe Old Woodの古い綴り。発音は<ジ・オールド・ウッド>。Barlingコレクターの間ではYOWと略記されることが多い。YeのYは、活版印刷で再現できなかった中世英語のth-音を表する文字を"y"で代用した名残りである。
(※2)T.V.F.はThe Very Finestの略。Pre-Trans Barlingは典型的なもので150年以上のブライヤーの樹齢からで製作されたといわれるが、T.V.F.デジグネーションはその中でもさらに高樹齢のブロックから製作されたパイプを意味しているのではないか、というのが多くのBarlingコレクター達の見解である。この件に関しては確かなソースが存在しないため、コレクションを通じていろいろな側面からパイプを吟味していくしか確認の方法はないだろう。