「ブライヤーの真実」ロバート・C・ハムリン/PCCA(アメリカ・パイプコレクタークラブ)

2月 23rd, 2021

(以下の文章は随分昔に訳出して、OBスレに投稿したものですが、現在読んでも十分ためになる文章なのでブログにまとめておきます。ロバート・C・ハムリン氏はPCCAの中心人物で、以前はpipeguyというウェブサイトも運営されていました。oldbriars)

質の高い煙草を用い、パイプを清潔に保つことももちろん重要だが、ブライヤーのキュアリングとパイプの構造は、パイプの吸い味に関する重大な要素であり喫味に実際に影響をもたらす。ブライヤー・キュアリングは質の高いパイプを製造する過程における唯一ののステップである。キュアリングはあるパイプがどのようにブレイクインを終え、どのように熟成するかにおける非常に重要な要素である。煙草の味を最大に楽しむ上で、熟成された葉を選択することと同じくらいの重要度で、熟成されたブライヤーパイプは煙草の最終的な喫味にさらなる味を追加するのである。

熟成されたパイプとはどのようなものであり、どうやって熟成を達成するかという問いに答える前に、どのようにブライヤーが処理されてパイプとなるのかを知る必要がある。

ブライヤーは伐採所(sawmill)で根瘤(briar burl)として収穫されたのち、裁断され等級付けされる。ほとんどのブライヤーは50から75年の樹齢で、サイズはバスケットボールほどだ。伐採されたのちもこれらのブライヤーはまだ生きており、一様に表面から青いひこばえを伸長させる。根瘤は切断され、等級付けされ、大きさを計測されたのち、沸騰した湯の中で殺(安定化)されるのである。
煮沸されたブライヤーは再び等級付けされ、麻袋に詰められたのち、パイプメーカーに出荷される前に最低一年間の空気乾燥にさらされる。この最初の空気乾燥は後々第二ステージのキュアリングを施されることを前提としたものである。パイプ作家は18ヶ月から24ヶ月乾燥されたものを選択し、マスプロメーカーは最大で12ヶ月乾燥されたものを使用することが多い。

この時点で注意すべきは、ブライヤーは伐採所の職人によって大きさ、グレイン、重さ、そして色などで等級付けされるということである。質がまちまちなブライヤーは値段が安く、グレインの良い大きなブロックは最も高価となる。いくつもの麻袋から手ずからブライヤーブロックを選り抜くならさらに値段は高くなる。

パイプメーカーがブライヤーを選んだのち、甘い煙を確かなものとするために追加キュアリングが行われる。全てのパイプ作家がブライヤーブロックをエアキュアしている。この追加エアキュアの期間はパイプメーカーによって異なり、1年から6年の間の差がある。BonfiglioliやBeckerなどの小規模メーカーは1年間ブライヤーを保持し、Ashtonは2-3年、Castelloなどの大規模メーカーはブロック購入後3-6年のエアキュアを行う。

パイプメーカーはユーザーの第一印象が長く尾を引くことを認識している。もしスモーカーが ブレイクインが大変だったり、最初の期間に辛さを感じたりすれば、その人はそのブランドを避けるようになってしまう。逆にブレイクインしやすく、最初の一服から甘い煙が楽しめたなら、その人は次も同じブランドを購入するだろう。キュアリングのさまざまな工程は、ブライヤーブロックがパイプとなる以前から、ブレイクインしやすく「熟成された」パイプを作ることを目的としたものなのである。

「熟成された」パイプとは完全にブレイクインが終了したパイプのことであるが、それを達成する方法とは何だろうか。明確な答えとしては、パイプを吸い続けて新しいブライヤーの辛さがなくすことである。これは通常あまり楽しい経験とは言えず、パイプスモーカーが好むものではない。もしホットで辛い新品パイプの味の原因が分かれば、その対策も取りやすくなるだろう。

ブライヤーも木である以上はタンニン酸(Tannic acid)を含む、といったら驚かれるだろうか。タンニン酸は若いバージニア煙草や収斂性のある未熟成の赤ワインの辛さと同じものである。一般的な植物や木、たとえばオークなどは高濃度のタンニン酸を含んでいる。色々な自然生成の酸が食べ物の中には見られる(たとえばビタミンCも酸の一種である)が、多くは気付かれないか、もしくはその食べ物の味わいにプラスとなっている。オレンジの酸っぱさは柑橘酸によるものだ。この酸っぱさはオレンジの味の重要な一部となっているが、もし100度c近くにまで加熱されたならオレンジジュースや赤ワインを楽しむことはできなくなるだろう。

ここで、未成熟のブライヤーをパイプに使用する際の問題が露になる。つまり「加熱された酸」である。ほとんど全てのパイプタバコ(特にフルフレーバーの非着香タバコ)にもタンニン酸は含まれており、その燃焼には最低でも摂氏150度以上の熱を必要とする。ここにブライヤーに含まれるタンニン酸のことを考慮に入れれば、なぜ真新しいパイプのブレイクインに「ホットで辛い」煙がつきものなのか容易に理解できるだろう。

パイプメーカーはブレイクイン時の不快な味を抑制するために色々な小技を施す。中でも多いのが、燃焼する煙草とブライヤー肌の接触を少なくする方法である。「プリ・スモーク、ブレイクイン不用」といわれるボウル・コーティング、蜂蜜やオリーブオイルをボウル内に塗布する方法が一般的だ。最上の方法は最も自然なやりかた、すなわち酸が単に熟成して分解するのを待つ方法、若い赤ワインの鋭い味がソフトな味に成熟するのと同じプロセスである。もしパイプメーカーに、4-5年の間ブライヤーをストックしておける余裕があるなら、それがタンニン酸を自然に成熟・分解させる最も簡単な方法である。

オイル・キュアリングはアルフレッド・ダンヒルによって初めて開発され、ブライヤーから余計な樹液(酸)を取り去り、ダンヒルのパイプのブレイクインを簡単なものとせしめた方法だ。現在では現行ダンヒル、セル・ヤーコポ、ファーンダウンのパイプがオイルキュアされていると宣伝されている。実のところ、これらのパイプは皆オイルを塗布して加熱処理を施されているだけで、筆者の知る限り、現在のマーケットで手に入るものではアシュトンのブライヤーのみが真のオイルキュア・パイプである。

真のオイルキュアは、ブレンドされたオイルの中に未処理のボウルを漬けることによって行われる。オイルに漬けられたブライヤーボウルは次に加熱されたペグに移され、14日間、エアキュアでは取り去ることのできなかった樹液を完全に除去されるのである。オイルキュアリングの第一の利点は、樹液を完全にブライヤーから除去し、辛さを取り去ることである。第二に、ブライヤーを少しだけ熱に強くする作用があり、パイプが焦げるのを防止することができる。短所としてはオイルの味が処理後も残ってしまうことだが、このオイルの味はブレイクインが完了すれば消失する。とはいえある種の人にはこの味は不快なものと取られるかもしれない。

ブライヤーをブレイクインする真の、そして唯一の方法はそのパイプを吸うことだけである。もし前もってブライヤーがどの程度成熟しているかわかるのなら、ブレイクインの進捗具合に手を加え、ブレイクインを簡単にすることができる。筆者が最近試した二本のカステロは最初の一服からすばらしいの一言だった。苦痛がなく、辛さもなく、不快な味もしない(私は過去に非常に辛いカステロを持っていたこともある)。アシュトンのパイプはいつも辛さがなく、(オイルの存在を思い出させる)少々人工的な味わいが印象的なので、私はより自然に思えるオールド・チャーチ・フィニッシュを選択することが多い。また、スムースの、アシュトン・ソブリンはオイルの味があまりしないように思える。

セル・ヤーコポ、カミネット、ラディーチェ(訳注:ラディーチェはオイルキュアのラインも存在した)のようなエアキュア専門のメーカーは平均的な味わい(すごく悪くもないが、素晴らしくはない)である。表面的なオイル処理を行っている最近のセル・ヤーコポ、現行ダンヒル、ファーンダウンはブレイクインが簡単だ。チャラタン(古いものも現行のものも)、アップシャルはブレイクインのしづらさが有名だが、それが終わればかなり激変するという評判がある。(この結論にはパイプ毎に異なり、同メーカーといえども例外はあるだろう。)

サビネリ、ピーターソン、GBDのようなマシンメイドパイプは追加キュアリングが施されていないため、少々の努力を要することになるだろう。だが筆者のコレクションの中で最も美味いパイプはサビネリのジュビリオ・ドーロなのだ。このパイプは1974年に購入したものだが最もブレイクインしづらい類の一本で、ずいぶん苦労した。しかし一旦熟成が済むと、飛びぬけたパイプとなったのだ。追加キュアリングがなかったがための苦労である。ブレイクイン時の苦痛を和らげるためにはマイルドな煙草をゆっくりと吸えばよい。最初の2-3ボウルを酸の少ないブレンドか、バーレー・ベースの煙草を用いて優しく吸えば、他の煙草を楽しむことができるようになるだろう。

火皿形状というものも、実際には煙草の最終的な味わいに大きな重要性を持つにも関わらず、一般的には見過ごされている。ポット・シェイプに見られるような口径が広く底の浅いボウルは煙草を適切に詰めるのが非常に難しい。逆にチムニーやスレンダー・ビリヤードのような口径が狭く底が深いパイプを適切に詰めるのは最も簡単である。完璧な火皿は、トップからゆるやかにテーパーし、ボトムで幅が狭くなるものである。

火皿は、ひとえに煙草を適切に詰めるために色々なバリエーションが存在する。適切に詰められた煙草はタンピングや再着火をそれほどせずとも均等に燃焼する。きつ過ぎたり緩すぎたりすれば煙は熱くなる。といってもポット・シェイプが駄目というわけではなく、最も適切に吸うのが難しいことに注意すべき、というだけである。

個人的には、もっとも注意を払うべき箇所は煙道がボウルボトムに開口する箇所だと考える。完璧な煙道の開口のしかたとはボウルの中心に、すこしだけ上部に開いたものである。左右へのズレはパイプがどういう味になるかということに全く関係しない。ボトムより少し低く開口した煙道は強めにタンピングすると詰まることが多く、ジュースを生じやすい。あまりにも高いところに開いた煙道は最後に燃えさし(あまり無理して吸う人もいないが)が残ってしまうことになるが、低く開口したものよりマシだといえる。皮肉なことに、多くのパイプスモーカーが少しだけ高く開口したパイプよりも、低く開口したパイプを理想として珍重している。

もうひとつの世間に流布した誤解は、火皿内のカーボンケーキの価値についてである。私は火皿がほとんど埋まり、煙草をほんのちょっとしか入れる場所がないほどカーボンがつけられたパイプを見たことがあるが、このような習慣はブライヤーに害をなすというだけではない。では他の点とはなんだろうか。

こういったカーボンケーキが溜まりに溜まったパイプのオーナーは素晴らしい味わいがする、と断言する。しかしいったいどうしたらそれが分かるのだろう?三服もすれば煙草は全部燃焼してしまうだろう。私が指摘したいのは、このような喫煙によってボウル内に蓄積されたカーボンケーキにまつわるマジカルな考えはどのようなものであれ、真実なものはひとつもないということだ。

薄いカーボンケーキをボウル内につける理由はただ一つ、300℃を超える燃焼する煙草の熱からむきだしのブライヤーを守るためである。煙草の味わいに変化をもたらし、水分や熱を吸収するのはブライヤーなのである。もしカーボンケーキがブライヤーよりも優れた素材なら、全てのパイプはカーボンで作られ、私たちはキュアリングやらグレインやら作家パイプやらに気を回す必要はなくなってしまうだろう。

カーボンケーキにはマジカル・パワーなどは全く存在しない。秘密の味わいも、香りの増幅も存在しない。ただ単にヒートシンクであるだけだ。

煙草の詰め方は大半のスモーカーが考えているほど単純なものではないし、色々な説が示唆するように難しいものでもない。適切な詰め方とは、煙草のタイプ、ボウルの形状によって変わってくるものなのである。背の高いボウルを小さなボウルと同様に詰めることはできないし、口径の大きいポット・ボウルはダブリンやクラシック・ビリヤードと同じように詰めることもできない。適切な詰め方のコツのヒントは、喫煙中に煙草が燃焼する状態にある。燃焼の遅い、圧縮されたフレイク煙草を広いチャンバーにきつく押し込んだら燃焼は非常に難しくなる。詰め方は煙草の火が次の煙草の層に移るために必要なだけ固く(風切音が出るようではいけない)、そしてある程度自由に燃焼することができるだけ緩い必要がある(頻繁にタンピングする必要はない)。固すぎたり緩すぎたりすると再着火の頻度が高くなり、吸い吹きも強くなり、ボウルが熱くなってしまうことになる。

私たちのパイプは生きた木の球体からできたものである。生のブライヤーは伐採所やパイプメーカーの手によって数度にわたって処理され、キュアされ、長年に渡って楽しめる高品質な製品となるのだ。

最終的なキュアリングとは、新品のパイプを手にしたオーナーに委ねられている。最初のブレイクインが終了すれば、あなたは完全に熟成した完全にキュアされたパイプを手にすることになるだろう。あなたのパイプは生の素材から職人の手を経てオーナーに手渡されたもので、そのどの過程にも新しいパイプを楽しめるように、という意思が存在しているのだ。

3 Responses to 「ブライヤーの真実」ロバート・C・ハムリン/PCCA(アメリカ・パイプコレクタークラブ)

  • none より:

    初めまして。
    最初のパイプを買ってみてまだ半年くらいなのですが、この話はもっと周知されるべき内容でしょうね。

    カーボンケーキが重要なのではなく、それが出来上がるくらいがBreak Inの目安になるというのが当時の共通認識だったんではないでしょうか。恐らく。
    「まあまあ、短気を起こさず気長にやんなはれ、お若いの」という英国・EU的な言い回しというか。

    そこにダンヒルがReady To Smokeを打ち出し(オイルキュアは繊維密度を下げて工作生が向上する、という利点もあったようですが)、それが広まる中で「何にでも慣らし期間はある」という先達の知恵が忘れ去られていった…よくある話ですね。

    色々と試行してみて感じたのは底部のタール残りですね。ジュースや煙に溶出したブライヤーのタンニンが底部に溜まり、なかなかそれが燃え切らずに残留蓄積しがちというか。
    これは一見かなり使い込まれた物でもそうみたいですし、多くの人がTongue Biteと言っているのはコレか原因なのではないかと。私は最後の最後が一番味が濃く美味しく感じるのでとみにそう思います。

    過燃焼でBiteが起きるなら着火時にそうなるはずですし、葉のBite感とパイプ本体のそれは異質に感じます。
    ブライヤーのタンニンは「口腔を鞣されている」とでもいいますか、舌先の甘味を感じる部位がダメージを受けるので、甘さが感じられなくなり塩気と酸味ばかりが際立ってくる感じになりますね。

    なので最初と仕上げの段階(未使用からなら20〜30ボウルくらいでしょうか)で底部だけに葉を詰めて、ややブロー気味で燃やすと雑味の飛びが早い気がしました。
    Estateだとその部分に前オーナーの煙草や家の匂いも残っているので、それも一緒に燃やし切ってようやく仕上がる印象というか。

    あとは完全なリーミング直後は樹木の匂いが混ざるので、膜状のカーボンは必須な気もしています。木が直火で炙られる匂いを避ける、という意味では最小限のカーボンはやはり必須なんじゃないかと。

    ボウルのサイズやプライアーの種類による熱伝導率の違いによる味の違いなども感じますが、まずは気長に付き合うというのが肝心なのでしょうし、そう考えるとそのための愛着を持つためにこれほど多様なデザインが生まれた、とも言えるかもしれませんね。

    なかなかに哲学的で奥深いな、と愉しんでおります。

  • oldbriars より:

    コメントありがとうございます

    この話題に関してはこちらの記事もぜひどうぞ
    https://togetter.com/li/206226

    リーミング直後に樹木が香るのはブレイクイン不足かと思います。
    ブレイクインが終わっていればゼロカーボンケーキでも木の匂いはしなくなります。

    • none より:

      oh..だとするとやはり気長な付き合いしかなさそうですね。
      まさに辛酸を舐めておりますハイ。

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