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ライアン・オールデン:常に価格以上の価値を求めて

8月 14th, 2015

円安が続き、海外のパイプショップに並ぶパイプがどれも3割ほども値段が上がったように感じる昨今ですが、パイプコレクターの皆様はいかがお過ごしでしょうか。もはや我々は1ドル=70円台だった世界とは別の世界に生きているといっても過言ではありません。数年前の500ドルのパイプはもはや500ドルではない。何を言ってるのかわからねーと思うが。でもお目当てのパイプの値段を毎回計算機で円に変換しては「ウッソー」と叫んでいる方も多いのではないかと想像します。

というわけでいきなり金の話から始まりましたが、こんな世知辛い世の中じゃ600ドル、800ドルなどという立派なプライスタグを掲げるハイグレーダーのパイプ(今ついつい頭の中で円に変換してしまった人は正直に言いましょう)よりも、ついつい売出し中の若手作家の作品に目が向いてしまうのは致し方ないこと。しかしこちらのほうも掛け値なしにバリューが高いと思えるものはほとんど見つかりません。世界的なパイプスモーキングの盛り上がりとそれに伴うハンドメイド・パイプ需要の高まり(eBayでのビンテージ・パイプの相場も随分と騰がりました)もあって、若手パイプ作家といえどもなかなかのお値段をつけていることが多く、しかもその作りやシェイプには若干不安を感じさせるものが散見されたり、ひどい場合にはこの値付けはインチキじゃねーのと言いたくなるようなのが混ざってたりもします。

これじゃあ買えるパイプがねえじゃねえか。
円高時代にヘタに目を肥やしてしまったのが運のツキとも言えます。

…そんな厳しい状勢にも拘わらず、最近僕が立て続けにパイプを購入している作家さんがおります。
その人の名はライアン・エドワード・オールデン。アメリカはテキサス州ダラス在住の現在35歳、フルタイムの専業パイプ作家です。ブランド名としてはR.E.Alden Pipesとなります。まあ論より証拠と言いますので、僕の購入したオールデン・パイプを見ていただきましょう。

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最初にショップで見つけて購入したビリヤード。ステムは白アクリルでアフリカン・ブラックウッドのリングが入っているが、バレルタイプのスタウトなボウルに太目のシャンクでファット系ビリヤードお手本のようになっている。

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こちらはコミッションで作ってもらったロバット。ちょっとステムが長めではあるが、ファット気味なシャンクもあいまって非常にバランスのとれたロバットになっている。ブラストも最高。ちなみにライアンの作るアクリル・ステムは非常に出来がいいので、エボナイト派の僕には珍しくわざわざアクリルで作ってもらいました。

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こちらは届いたばかりのスタウト・ビリアード。全長10cm強のノーズウォーマーです。こんなにコンパクトなパイプでも、全体のバランスが崩れていないところに注目。

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リップボタンのアップ。こちらは旧仕様のボタンですが、容量は大きくVスロットも非常に長く取られています。ロバットようなショートステムの場合、煙道は全てフレアで占められるほど。

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ジャンクション部のアップ。高い精度が一目瞭然。エッジもビシッとしていて気持ちがいいです。

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サンドブラストのテクスチャ。ディープでクラッギーですが、変なわざとらしい人工的なグレインを強調していないのが僕の好みです。

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作家物にはきわめて珍しい、ジャンクションまで全部ブラストされているシャンクエンド。ライアンによれば、オールドダンヒルなどのビンテージ・パイプ・コレクターにアピールすることを狙っているそうです。

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ライアンの最新のカラースキームである『ブリンドルブラスト』。深みのあるレッド系ブラウンのステインに、カンバーランドステムの組み合わせ。非常に魅力的なフィニッシュ。

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こちらがライアン自慢の最新仕様のリップボタン。リップスロットの幅が増し、ハイグレーダーの多くが採用する形に近くなっています。もちろん非常に快適で、クレンチにもリップホールドにも両対応。

ご覧の通り。ライアン・オールデンの魅力は、1) 美しいクラシックシェイプ、2) トップクラスにクラッギーなブラスト、そして3) 入念に作り込まれたエンジニアリングサイドの三本柱です。

シェイプとブラストに関しては上の写真で十分に納得いただけるでしょう。ビリヤード・ボウルはカッコ良く作るのが最も難しい部類のボウルです。三本とも奇しくもビリヤード系のシェイプですから、クリーンなシェイプ感覚、それでいて味わいのある曲線の使い方など、オールデンのクラシックに関する造詣の深さが容易に見て取れると思います。

ブラストはアグレッシブで、しかも変に整ったグレインを強調しないナチュラルにクラッギーなタイプ。本人がブラストフィニッシュが大好きなせいか入念な仕上げで、業界でもトップクラスのブラストを行う作家の一人と言ってもさほど誇張ではないでしょう。

エンジニアリングに関しても非常に丁寧で、細部まで手の届いた仕事が印象的です。カッチリした危なげのないフィッティングに加え、エアフローの良さもリップの快適さも非常にレベルが高いです。

バリューとかお金の話でこの項を始めましたが、ここまでこの記事を読まれた方は僕が強調したいのはオールデン・パイプの値段ではなく、卓越したクオリティのほうだということにお気づきになられているでしょう。実際ただ単にお買い得だからという理由で、三本タテに同一ブランドのパイプを購入するほど僕は酔狂じゃあないのでござる。端的に言えば、ハイグレード・パイプの属性をことごとく備えていながら、ハイグレーダーの半分ほどの価格で買える驚異のブランド、それがライアン・オールデンのパイプなのです。

このあたり、いったい何がどうなっているのか、ライアンに直接チャットでインタビューしてみましたので以下の訳文をお楽しみください。

ライアン・オールデン インタビュー

――oldbriars:まず自己紹介をお願いします。パイプメイキングに足を踏み入れるきっかけはなんでした?また、パイプ製作は誰に習いました?

ライアン・オールデン(以下R):僕の家には小さいころからずっと作業場があってね、親父は暇なときはいつもそこでちょっとした家具、机とか本棚とか額縁なんかを作ってたんだ。だから僕は工具と木工に囲まれて育ったってことになるね。18の時にパイプスモーキングを始めて、それ以来ずっとパイプが大好きだし魅了され続けてる。パイプスモーキングの歴史とか逸話はいつだって僕の興味をそそるものだったんだ。
32歳のときに職を失って、これからは上司の機嫌が悪い日にクビになりやしないかヒヤヒヤするようなことがない、何か自分ひとりでできる仕事をやろうって決めたとき、パイプを作ることを試してみてもいいんじゃないかって思ったんだよ。僕は何年もずっと、古いパイプを買ってはレストアしていたからね。それで大型トレーラー(日本では何ていうのかな?アメリカじゃ18ホイーラーとかローリーズって呼ばれてるでっかいやつだよ!)の運転手をしながら、自分の時間はすべてパイプ製作に関して手に入るあらゆる情報を集めることに費やしたんだ。

一年間調べられることはすべて調べ尽してから、僕は一本目のパイプを作った。そしてそのパイプを持ってシカゴショーに行ってみたんだ。そこで僕が出会ったのはラッド・デイヴィスをはじめとする数々の偉大なパイプ作家たちだった。特にラッド・デイヴィスは僕のパイプを気に入ってくれて、ショーの間いろんな人々に僕のパイプを見せて回ってくれた。ショーが終わっても僕はラッドと頻繁に電話のやりとりを続けて、色々難しいポイントについて質問をしたりした。彼は僕がパイプ製作一年目に訪れるさまざまな障害を克服するのを手伝ってくれたんだよ!

次の年のシカゴショーでは、プリマル・チェダに話しかけてみたんだ。それ以来、プリマルは僕にとって友人であり先生でありそれ以上の…兄貴のような存在になったんだ。彼は毎年僕を一週間ほど自分のワークショップに招待してくれてね。プリマル本人やビル・シャロスキー、そして<スモーカーズ・ヘイヴン>に立ち寄る才能あふれるパイプ作家たちに交じってパイプ製作することは、他の何物にも比べられないほど大きな影響を僕に与えたんだ。僕のパイプの構造やドリルのやり方の基準は、プリマル・チェダが高品質なパイプに求める厳しい基準そのままのものなんだよ。

プリマルとビルと過ごした時間以外では、ブルース・ウィーヴァーの作業場で何日か過ごしたこともある。それと、僕と同じくテキサスに住んでるマイク・ビュテラ(!)からもいろいろな知識を教えてもらったことがあるよ!

――oldbriars:Alden Pipesのアルバムを見るとクラシックシェイプが大半を占めていますが、クラシックシェイプは好きですか?また、ブロウフィッシュとかピックアックスのようなよりファンシーなシェイプを作る予定はありますか?

R:僕はクラシックシェイプの単純さが大好きなんだ。完成したカタチと完成した機能がひとつの美しいオブジェの中にきっちりと納まっているのを見るのはとても楽しい。
もちろんアーティスティックな観点からカタチを作り出しているモダン・シェイプも大好きだよ。僕は段階的にシェイプの幅を広げていこうと思っている。僕はこれまで、ひとつひとつシェイプが備える構造をマスターしてからそのシェイプをモノにしていく、ということに注力してきたんだ。僕のパイプはどのパイプだってまず喫煙の道具であることが優先されるのさ。美しさはその後の話だ。<世界で最も美しいけれど煙道が狭すぎるバレリーナ・シェイプ>なんて、僕には意味がないものに思えてしょうがないんだよ!

<道具としての側面が優先>のちょっとした例だけど、僕は以前も良いリップボタンを作ってきたと思う。高さが高すぎず、長さが短すぎず、形がよく、さっとに唇になじむやつをね。でも僕はもっと完璧でベストなボタンを作りたかったんだ。だから僕はリップボタンを、今の僕の目に完璧だと思える形に変化させた。リップボタンなんてパイプ全体からみればほんの小さなパーツだけれど、それでも最も重要なポイントのひとつなんだ。ぼくがここ数年集中していたことはパイプの細部を完璧にすることだった。今はもうすごく満足のいくリップボタンが作れるようになったから、これからはシンプルなビリヤードからアシンメトリックなブロウフィッシュまで、僕が作るどんなパイプも研究の成果の恩恵を受けることができると思うよ。

こういった細部に関することには自分でも満足できるようになったから、そろそろ新しいシェイプをお見せすることができるんじゃないかな。

――oldbriars:個人的には、Alden Pipesの値付けは品質に比べてちょっと安すぎる気がします。こんなお手頃な値段をつけている理由があれば聞かせてください。

R:価格を上げていくのはできるだけゆっくりとやっていこうと思ってるんだ。僕は自分のパイプが<悪くない値段>であって欲しいんだよ。僕はこの点こそラッド・デイヴィスが素晴らしい成功を収めた秘訣だと思うんだよね。彼の作るパイプはいつでも彼が設定する価格以上の価値があったじゃない? ああいうのが僕の理想なんだ。僕が自分のパイプにどんな値段をつけようとも、いつだってそのパイプには必ず価格以上の価値がある、っていうね。

それと、僕はとってもいいお客に恵まれてるせいで価格を低く抑えられてるってところもある。僕はほとんどのパイプを直接お客に売ることができてる。これって言うほど簡単なことじゃなくって、写真を撮ったりメールに返信したりと余計な手間もかかるんだけれど、でも僕はお客と直接話をしてお客のことを知るのが大好きだから、そこは問題にはならないんだ。間に小売店が入ってマージンを取られることがないから、これまで価格を低く抑えることができてる。こういった感じで商売が続けられてるかぎり、僕のパイプはこれからもずっと<悪くない値段>だと思うよ!

――oldbriars: Alden Pipesの内部エンジニアリングは非常に素晴らしいものですが、良いパイプを作るために最も重要視していることはなんですか?

R:一番手間がかかるのはステムの内部の諸々、特にリップ手前1インチは一番重要な箇所だけど、でもパーフェクトな喫煙体験のためには煙道の端から端まで全てがきちんとしてる必要があるんだ。ことエンジニアリングに関しては、どの点もおろそかにしたりサボったりすることはできない。どのパイプの極小ディティールも完璧じゃなきゃダメで、例外なんてものはない。そして僕が苦心してるのはまさにそこなんだよ。

oldbriars: Alden Pipesはサンドブラスト・フィニッシュの良さで知られていますが、あなた自身もスムースパイプよりサンドブラストのほうが好きなんですか?

R:うん、僕はブラストのほうが好きだ。自分ではほとんどスムースパイプって買ったことがないんだよ。僕は自分のオウンパイプの扱いが雑だから、あんまり手入れが必要になる仕上げは向いてないんだよね(笑)。去年一年間、あんまりスムースパイプは作れなかったけれど、これからはもうちょっとスムースを増やせたらと思うよ。

――oldbriars:最後に、日本のパイプスモーカーにメッセージがあればお聞かせください。

R:もちろんあるよ!これまで僕のパイプを買ってくれた人には、コレクションに僕のパイプを加えてくれて有難う、って言いたい。日本のパイプスモーカーのみなさんは品質にとても敏感だよね。どれだけ有名かとか、高い値札がついてるかとかじゃなくって、その作品の本質を見てるんだ。これまで知り合いになれた人達に会いに、いつか日本に行けたらと思うよ。

そしてもうひとつ、僕のところには英語ができなくても気軽にメールして欲しいんだ。日本語メールでかまわない。Google翻訳だけじゃ厳しいかもしれないけれど、もしお互い話が通じなかったら、誰か翻訳できる人間を連れてくるからさ!

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ライアン・オールデン。

どうでしょう。名は体を表すと申しましょうか、ライアンのパイプは彼の言葉の簡潔な証明となっており、また彼の言葉は彼のパイプのなりたちの確かな裏付けになっていると思います。すなわち、

  • ・プロ作家になるという明確な目標をもってパイプ製作に取り組んでおり、そのために必要なことを貪欲に取り入れる姿勢がある
  • ・美しさより道具であるということを優先し、細部を最も重要だと考える製作思想
  • ・まず自分の作れるシェイプから、ひとつひとつ完璧さを目指すという堅実性
  • ・ラッド・デイヴィス、プリマル・チェダといった(やはり)華美さより道具としての完成度を優先する導き手の存在

まさに彼は自分の思い描くパイプを作っていることが、上記のパイプの写真からも解るのではないでしょうか。
大して更新もしないブログ(←ごめんなさい)でわざわざ1エントリを設けて紹介してることからも分かるように、ビル・シャロスキーがなかなかパイプを作れない状況にある現在、ライアン・オールデンは僕(oldbriars)のイチ押しのパイプ作家です。彼のインタビューにもあったように英語が苦手な人でも注文は大歓迎。サイトにはある程度吊るしのパイプもアップされていますが、細かな注文まで引き受けてくれるコミッション・スタイルでの受注がメインとなると思います。(支払いにはPayPalが簡単ですが、郵便為替、国際口座振込なども応相談でOKとのこと)納期も今のところそれほど長くはかからないと思います。

  • 価格(あくまで傾向ですので、正確には本人に見積をとってもらってください)
  • サンドブラスト、クラシックシェイプ 約270ドル~350ドル
  • サンドブラスト、スペシャルシェイプ 約400ドル~
  • スムース、クラシックシェイプ 約380ドル~

ライアンのウェブサイトはこちら
http://www.aldenpipes.com/

facebookのアカウントがあればさらにやりとりが簡単になるでしょう
https://www.facebook.com/ryanealden