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2021年現在、お気に入りのパイプ煙草

2月 25th, 2021

変わっていくパイプ煙草シーン

数年前にいくつかのパイプ煙草関連のエントリを書いた時と、2021年となった現在ではパイプをめぐる状況というのは随分と様がわりしました。ひとつには、煙草の入手性の問題。それが起こる以前は想像もできなかったことですが、2018年にアメリカのクラフト煙草シーンの中心であり、業界を牽引していたマクレーランド・タバコ・カンパニーの廃業という衝撃がありました。そして英国の法改正により、英国国内の煙草販売業者は煙草を海外に発送することができなくなり、過去にこのブログで紹介したGQ tobaccoも“ブティック・タバコニスト”としての業態を諦めざるを得なくなりました。結果として素晴らしい銘柄の数多くが入手困難となったのです。

もうひとつは、ライフスタイルの問題。これは個人的なことですが、コロナ禍に先んずる2018年よりほぼ完全な在宅勤務に移行したことで、僕にとってパイプ煙草の重要性はいや増しになりました。幸いながら完全在宅でも支障がない業務なうえ、自室も特に禁煙ではないので仕事をしながらパイプを吸いまくっています(シガレットは止めてしまったので喫煙はパイプ煙草だけです)。このライフスタイルの変化は、煙草の好みにも深刻な影響を与えました。具体的には、以前はあれほど好きだったラタキアやオリエンタルが<まったくと言っていいほど>吸えなくなってしまい、かといって一般的なストレートバージニアは神経を使うので、それ以外のブレンドの中から飽きずに吸える銘柄のみを選んで偏愛している次第です。

こんな2021年に、僕が楽しんでいるパイプ煙草を紹介したいと思います。基本的に一日中パイプを銜えており、平均10ボウル程度を灰にしているので、何ボウルも吸っても飽きない銘柄が中心です。また前述の通り煙草の好みが変わってしまったので、ラタキア入り、オリエンタル入りの銘柄は除外されています(どちらの煙草葉も、一日1ボウル程度だったら実に美味しく吸えるのですが)。

・ガーウィス・ホガース エナーデール

「レイクランド煙草」にカテゴライズされる、独特な香料の使いかたが日本国内でも知られたイギリス煙草ですが、2020年になってようやく試してみたところ非常に気に入ってしまうという仕儀に相成りました。バージニア+バーレーをベースとして、アーモンド香料と数種のフローラルアロマの組み合わせで香り付けされていますが、いったいどういうブレンドの妙なのか、クリームソーダ(喫茶店で飲むあの懐かしい飲み物です)を彷彿とさせる甘い香りが楽しめます。燃焼特性も非常にすぐれていて吸いやすく、単純な味だけで言えばガーウィス・ホガース以外の他社製品含めレイクランド煙草の中でも1、2を争う美味さの煙草だと思います。かなり香りも味も強い煙草なので、ローテーションの中でここぞという時に1ボウルだけ楽しむという感じで吸っています。

・ガーウィス・ホガース No.7 ブロークンフレーク

これもレイクランド煙草ですが、こちらは常喫煙草として1日数ボウルは灰にするという、いまだかつてないほどお気に入りになった銘柄です。レイクランドの香りはバニラ+フローラルで、香り付けの強さは中程度。こちらも葉組はバージニア+バーレーでとても喫煙が楽です。以前には国内では名前も聞いたことがなく、そのそっけない銘柄名もあいまってガーウィス・ホガースのラインナップの中でも目立たない印象でしたが、試してみたらとても気に入ったので大量に購入して1年ほど熟成させたものを吸っています。熟成させるとさらに美味くなる点もすぐれています。自分にとっての福音とでも言える煙草です。

・ガーウィス・ホガース ブロークン・スコッチ・ケーキ

<ライトなストレートバージニアで特筆すべき点もない煙草>という紹介がなされることが多いこの銘柄ですが、僕の評価は異なっています。僕にとってこの煙草は<常喫向けに特化した、かなりハードなヘビースモーカー向け煙草>というもの。一般的なバージニアリボンのように甘ったるくなく、その奥底にはシガーやスワレを思い起こさせるかすかな渋みがあって、一日中吸っても飽きることがありません。軽いため連続して喫煙してもニコチンのオーバーロードを起こさず、パイプに極めて楽に詰められるところも、イライラして手際が雑になりがちな仕事中はうれしいものです。非常に地味な銘柄ながらわざわざ缶入り形態での販売もなされているのは、僕のようなヘビー(パイプ)スモーカーから一定の需要がある証左でしょう。特に吸いたい煙草が思いつかないときには無意識にボウルに詰めてしまうので、500グラムバッグがどんどん減っていくのを閉口しながらながめています。

・ガーウィス・ホガース スライスト・ブラウンツイスト

パイプ煙草のなかでも最も古い形態であり、葉巻と似た構造で煙草葉を縒りあげたうえ、加熱・加圧し熟成させるというロープ煙草ですが、今となっては往時の製法そのままの『本物の』ロープ煙草を作っているのは世界広しといえどもガーウィス・ホガースただ一軒でしょう。こと純粋に味だけで判じればこのガーウィス・ホガースのブラウンツイストこそ、複雑で奥深く滋味深く、<この地球上で一番うまい>煙草だと考えています。ただし非常にクセが強くニコチンも強烈なので、体調がよく気合も十分なときでないと吸う事はできません。そんな瞬間が訪れたときのために常備しています。「スライス」バージョンのコインカット形態はロープそのままのパッケージとは違い、軽く揉み解せばすぐ喫煙できるのでこの煙草の高いハードルを幾分下げるのに役立っています。

ガーウィス・ホガースの500gパッケージ。フレイクは箱、ミクスチャ類はプラスチックバッグで届く。

…蓋をあけてみればガーウィス・ホガースの煙草がずらり。とにかく大量のパイプ煙草を吸うので、500gという大容量でのパッケージが用意されているという利点はあるのですが、なによりも煙草の質(?)が性に合っているというのと、スモーカーによって好悪の差が激しいレイクランド・スタイルという煙草に全く拒否反応がない、という理由が大きいです。このブランドは北米のディストリビューターとの間に問題があって長いこと入手困難でしたが、去年(2020年)の暮、Smokingpipes.comを運営しているLaudisi Enterpriseが新たなディストリビューターとなったことが発表されました。これで入手がしやすくなれば大変ありがたいです。

マクレーランドやGQ Tobacco、そして英国パウチ煙草が入手不可能となったことはほんとうに残念です。がしかし、この痛恨事を我々パイプスモーカーを新たなるパイプ煙草探索の冒険へといざなう契機とみなすこともまた可能でしょう。ここでは特に触れていませんが、世界にはまだまだ優れたパイプ煙草が存在し、未だに体験したことのない味わいが隠れているのです。ライフスタイルの変遷もありましたが、個人的にも味覚の充実という意味では2021年の現在こそが最もパイプスモーキングを楽しめている時期かもしれません。

イギリスのパウチ物パイプタバコはあなどれない

12月 4th, 2013

ここ数年『グランド・オリエンタル』シリーズから『マチュアード・バージニア』シリーズ(茶色缶)、そしてある種究極の常喫用オリエンタル・ブレンドとも言える『オリエンタル・ミクスチャー』シリーズ(緑缶)を経て、<アメリカのクラフト・タバコの祖にして雄であるマクレーランドこそ究極の趣味的パイプタバコ・ブランド>という考えに落ち着いていたoldbriarsですが、最近になってちょっと風向きが変わってきました。

きっかけは最近お会いすることが多いきむぞうさん(http://ameblo.jp/kimuzo777/)より頂いた、ビンテージ缶のSt. Brunoで、これを吸ってみたところ「イギリスにもこんな深い味わいのバージニア・タバコがあるのか!」と目から鱗状態でした。ことバージニアに関してはサミュエル・ガーウィズの二大人気ブレンド(Full Virginia FlakeとBest Brown Flake)が個人的にあまりパッとせず(美味いことは美味いんですが…)、もうひとつの有名ブランド・ラットレーズのブレンドがどれも肌に合わなかった(ドイツ・コールハス製のタバコの独特の白粉臭?がダメ)ので、「英国タバコには大したバージニアブレンドがない」という固定観念にとらわれてしまっていたのですが、St.Brunoはそんな僕の蒙を啓いてくれたのです。St.Bruno自体は日本にもつい最近まで入ってきていたので、灯台下暗しといえばそうなのですが、創業時のマクレーランドが復刻を目指したという<古きよき英国産のバージニアブレンド>とは、実のところこのあたりのタバコのことを指していたのではないかと思うに至りました。

個人的にパウチ入りのタバコは安物の着香煙草ばかり、というイメージがあり、ガチの着香煙草が苦手な僕はパウチ入りたばこに変な先入観を持って遠ざけていたというフシもありました。慌てた僕は、
『―これはいけない、こんな美味いタバコがパウチという最も簡便なパッケージで売られているのは、イギリスのごく普通のスモーカーの味覚レベルというものはやはり尋常なものではなかったのだ、いや最もポピュラーで最も簡便であるからこそ、彼の国では最も優れた製品が要求されるのだ。イギリス侮りがたし。アメリカの趣味人の教養や熱意にはこのoldbriars、敬意を素直に表するが、それと同等の熱情がごく一般的な大衆の中に自然体で存在する英国こそやはりパイプスモーキングの本場であったか』
などとブツブツと考え、当然の仕儀としてイギリスのパウチ物パイプタバコをしこたま買い込むことと相成りました。

Manchester Tobacco “Revor Plug” (Gawith Hoggarth production)

revor plug

Revor Plug 50gパウチ入り。イギリスのショップでは10英ポンド前後で販売されている

GQ Tobaccosのウェブショップでまず僕の目を引いたのがこのRevor Plugです。本当に地味な、なんの変哲もないどうでもいいデザインのクリーム色のパッケージ。ただ僕が注視したのは、このタバコが現在は僕が絶大な信頼を置いている英国・ケンダルのガーウィス・ホガース社の生産になっているということでした。調べたところによるとこのRevorは英国中部の都市マンチェスターに存在したマンチェスター・タバコという会社のブランドで、会社は1990年代に日本のJTに買収されたあとに工場は閉鎖され、レシピがガーウィス・ホガースの手に渡っていまだに生産が続けられているようです。GQ Tobaccoの説明に従えばバージニア+ケンタッキーの葉組みに<レイクランド香>でわずかに着香されているそうで、グリン君の言によれば「地味~なタバコで英国でもそんなに出るタバコじゃないよ」とのことでした。

いざ現物が届いて吸ってみると、これが大・大・大・の大当たり!いままで体験したことのない味わいの素晴らしいタバコでした。馬鹿な表現ですが、素晴らしく甘く、素晴らしく深いだけでなく、フルーティで花の香りのレイクランド香の中毒性があり、まごうことなきガーウィス・ホガースのバージニアタバコと同じ深いハービーな熟成感と、そしてボトムには同社の一部のロープタバコに存在するオイリーさまでが存在しているのです。まさに上から下への味覚の饗宴で、『この味がこんなにも地味で安っぽいデザインのパウチの中に詰まっているのか!』とすっかり腰を抜かしてしまった僕は、上に記したイギリスのパウチタバコに対する疑惑(?)を確信に変えるにいたりました。イギリスのパウチ物はヤバイ。

revor plug

その名の通りプラグ形態。カットするにはナイフ等が必要だが、それほどプレスはガチガチというわけでもないので葉を剥がすようにして手でほぐすこともできる。このプラグの美しい光沢と漂うレイクランドの香りがまた味覚を駆り立てる

Ogden Walnut Flake (Orlik production)

ogden's walnut

Ogden Walnut 50gパウチ入り。こちらは英国らしい歴史を感じさせるデザイン。イギリスのショップでは12英ポンド前後で販売されている

次に試したのがこのOgden Walnut。Ogdenは英国リバプールに存在していた会社で、St.BrunoもこのOgdenの銘柄でした。ビンテージパイプ・コレクターの方々にはあのBarlingを買収した会社として聞き覚えがあるんじゃないかと思います。そのOgdenもImperial Tobacco傘下となり、1990年代までリバプールのファクトリーでの生産が続けられましたが、2007年に工場は閉鎖し、St.BrunoやこのWalnutの生産はデンマークのオーリック社に移っています。

ogden's walnut

パウチを開封すると、このようなカレールー(笑)を思わせる容器に封入されている。密閉度は高くパウチ形式で弱点となる長期間の保存も問題なさそう。

St.Brunoと同じ会社の銘柄ということで期待しながら吸ったのですが、このWalnutも素晴らしいタバコでした。僕の大好きなマクレーランド MV No.27を彷彿とさせるような、深く熟成したバージニアタバコですが、St.Brunoほど強いタバコではなく、もう少し気軽に吸える感じではあります。

僕は現行のオーリック製のダンヒルタバコが大嫌いで、My Mixture 965などは生産がOrlikに移ってから吸ったのち、二度と買うもんかと誓ったくらいだったので、オーリック社の生産であることに一抹の不安を覚えなくもなかったのですが、St.BrunoとこのWalnutはまるで別の会社が製造しているのではないかと思えるくらい美味しいタバコです。

結論として、イギリスのパウチ物パイプタバコには素晴らしい銘柄、それもちょっと他では見つからないような独自性と、年月に研磨された洗練が両立した銘柄があるのだと言わざるを得ません。他にも有名な銘柄がまだいくつかあるので、これから順次試していきたいと思っております。また、英国から買い付けることになるので価格は米国タバコや米国流通のイギリス製タバコよりも若干(というよりかなり)高めになります。このエントリを読んで購入される方はご利用は計画的に(笑)。英国タバコの購入には先日エントリで紹介したGQ Tobaccosが便利です。

revor plug

revorがあまりにも美味かったので調子に乗って追加購入。積めば積むほど心が豊かになるタバコ。

追記:Revor Plug を製造していたManchester Tobaccoという会社について調べてみたんですが、情報がほとんどありませんでした。分かったのはどうやらManchester TobaccoというのはイギリスCWS(共同卸売協会:生協のような組織)の煙草生産部門のようなものだったらしく、マンチェスターのルードゲイト・ヒルにはまだ当時のままのファクトリーの建物がそのまま残っています。ルードゲイト・ヒルの工場は1995年にトラッフォードに建てられた新工場によってとって替わられますが、オーナーであるJT(日本たばこ)の決定によりマンチェスター・タバコは売却が決定し、この新工場も2007年2月に閉鎖されています。こちらの建物は現在はEventCityというエギジビション・センターとなっています。CWSではRevor PlugのほかにMahogany Ready Rubbed、Centurion Mixture、Fulvous Mixture、Beechwood Cut Plugなどという銘柄を製造していたようです。往時の工場内の写真。

ブティック・タバコニストという選択

11月 17th, 2013

店内にずらりと並べられたブレンド用タバコのジャー。お客は自分の好みをブレンダーに伝え、その場で自分専用のブレンドを作ってもらう。出来のいいブレンドには番号が振られ、他人のブレンドを注文することも可能―こんなスタイルでパイプ煙草を供給するスタイルのタバコニストは、1980年頃までのイギリスでは珍しいものではありませんでした。かつてアルフレッド・ダンヒルの<消費材であるタバコを嗜好品にする>という思想のもとに始められたものですが、ロンドンのダンヒル本店でもこういったサービスをやらなくなって久しい時間が流れています。イギリス国内でもオリジナル・ブレンドを置いているタバコ店は非常に少なくなってしまいました。

GQ Tobaccos by Glynn Quelch

gqtobaccos

そんな淋しい風潮のなか、イングランド中部の街ノッティンガムで、新たにインターネットベースのタバコニストを開業したパイプ煙草ブレンダーがいます。グリン・クェルチ(Glynn Quelch)君30歳。地元ノッティンガムのタバコニスト、『ゴントレーズ』で9年間タバコブレンディングの技を磨いたあと、今年からノッティンガム郊外の自宅でタバコニストを起業しました。それがこの項で紹介するGQ Tobaccos(http://www.gqtobaccos.com/)です。

「何故独立したかって?僕はタバコを使って色んなブレンドを作ってみたかった。実験的なやつもね。新しい何かを作るのが僕の長い間の夢だったのさ。だけど店のオーナーは僕にそんな贅沢を許してくれなかった。だから辞めたんだ。そのおかげで、僕はあそこ(ゴントレーズ)で作っていた僕の傑作ブレンドのいくつかを、もう自分で売ることはできなくなっちゃったけどね。今頃あのオーナーが地団駄踏んで悔しがってるといいなと思うし、そうなるようにGQ Tobaccoを盛り上げるつもりだよ。』とはグリン君の弁。

Glynn Quelch

グリン・クェルチ君30歳。タバコどんだけ好きなのとツッコミたくなる写真。

グリン君のブレンダーとしての腕は確かなもので、『ゴントレーズ』の人気オリジナル・ブレンドのいくつかはグリン君の手によるものだそうです。クラシックなブレンドだけでなく、野心的で実験的な、今まであまり見たことのない葉組のブレンドも手がけています。現在10種類ほどのオリジナル・ブレンドをウェブサイトにラインナップしていますが、グリン君は自らのブレンドを<ブティック・パイプタバコ>と名づけ、昔日のタバコニストのように顧客の好みに応じた完全カスタマー・オリジナルのブレンドを誂えることをプライドとしています。また、既存のオリジナル・ブレンドも、要望を伝えてもらえれば微妙にトゥウィーク(調整)したものを発送することもできるとのこと。実際にもイギリスのハンドメイドパイプ作家、クリス・アスクウィズや、とあるイギリスの政治家などのために特注のオウン・ブレンドをブレンドしているそうです。

この他にサミュエル・ガーウィズやガーウィズ・ホガースなどのブランドのパイプタバコや、前述したクリス・アスクウィズのハンドメイド・パイプを含むパイプ・パイプ用品も販売しています。特にパイプタバコは日本にはあまり輸入されなくなってしまったセント・ブルーノなどを含む、アメリカ経由では入手できないタバコもいくつか販売しています。英国国内の価格なのでアメリカ経由で買うより値段は高め(1.5倍程度)ですが、日本では馴染みのない銘柄やグリン君のオリジナル・ブレンドを購入するのに利用してみてはどうでしょうか。日本からはクレジットカードで支払いが可能です。

以下僕が試してみたGQ Tobaccosオリジナルブレンドに関していくつか短評を。

GQ Blends “Classic English”

–Virginia, Kentucky, Brown Cavendish, Kentucky, Latakia & Cigar Leaf
「クラシック」という名前とは裏腹に、グリン・クェルチのモダンな一面が表出されたブレンド。GQ Tobaccosではこのブレンドをイングリッシュ・ミクスチャのフラッグシップ・ブレンドと位置づけている。バージニアのフルーティさが強調された珍しいタイプのイングリッシュ・ミクスチャで、シガーリーフが味の複雑性に一役買っている。ラタキアはオーバーパワーではなく非常にスムースなブレンド。ガーウィズ・ホガースのBalkan Mixuture(缶入り)を彷彿とさせるがあれよりももっと複雑。

GQ Blends “Classic Balkan (Izmir)”

–Virginia, Kentucky, Turkish & Latakia
<バルカン>を名前に冠するパイプタバコは多いが、それらはその実ラタキアをフィーチャーしたヘビー・ラタキアブレンドが大半で、本物のバルカン・スタイルのブレンドは非常に数が限られている。こちらはClassic Englishとはうって変わってトラディショナルなバルカン・ブレンド。ラタキアのスモーキーさ、バージニアの甘さはどちらも控えめになっており、Izmir(オリエンタル葉の一種)のナッティな甘さが前面に押し出されている。抑制的でおだやかな味わいなので(バルカン・ソブラニがそうだったように)常喫にも向いている。もちろんソブラニの代替品としてもおすすめ。

GQ Blends “Swamp Flower”

–Virginia, Kentucky, Turkish & Perique
グリン・クェルチ流VaPer(バージニア+ペリク)。ペリクは柑橘感を出すよりもブレンド全体のコク・深みを出すために作用しているが酸味も十分。Gawith Hoggarthのロープ系煙草をベースに使用していると思われるが、そのためもあってか非常な熟成感とリフレッシュ感のある酸味を同時に味わうことができる。オリエンタルとケンタッキーも少量ブレンドされているため、VaPerとしての純度は他のブレンドに譲るが、その代わりに蟲惑的といってもいいような複雑さを実現している。Peter HeinrichsのCurlyが好きな人や、現行のスリーナンズには熟成感が足りない、と思っているスモーカーにはうってつけ。個人的にはベストVaPer3指に入るブレンド。かなり強い煙草なのでニコチン酔いには注意。oldbriarsのおススメ銘柄です。

GQ Blends “Sugar & Spice”

–Virginia, Black Cavendish & Turkish
グリン・クェルチの冒険心がフィーチャーされたアロマティック。ブレンダーはあまりアロマティックを好まないそうで、「着香煙草が嫌いなスモーカーでも常喫できるアロマティック・ブレンドは可能か」がテーマだそう。オリエンタル葉(Izmir)がブレンドのベース煙草となっている極めて珍しいブレンド。イズミルのナッティなスパイシーさが”Spice”、甘くて美味しそうなナツメグ・シナモンの香りが”Sugar”ということなのだろう。オリエンタル好きなら一度はトライしてもらいたい野心的なブレンド。

下の動画は新作”BurPer Kake”の製作過程の模様。ハンドブレンド&ハウスプレス!!

 

追記。GQ Tobaccosで売られているJ.F.Germainの”Rich Dark Flake”はEsoterica “Stonehaven”のイギリス国内流通バージョンだそうです。僕も吸ってみましたがおだやかで極めてリッチ、ちょっとだけチョコレートっぽいノートが感じられる素晴らしいバージニアフレイクでした。Esotericaの煙草はひどい品薄状態が長く続いているので、少々値は張りますがStonehavenのファンの方はイギリス経由での購入もアリかと思います。

追記2。GQ Blendsを吸ってみた方の感想(随時追加していくかも。)

@mortalizさん
-GQ Blend Classic Balkan
「GQ Classic Balkan 金のゆるす限り買いたい。」「キック強力。ニコチンも似た構成のブレンドと比べて格段に強いが、味が素晴らしい。まじで親密さの中で世界が止まる。時間が空間になる。とにかく凄いよ!GQ Classic Balkan」「昨日のチェダ、今日のES(編注:ビル・シャロスキー作 Eye Scorcher)と、二回続けて喫煙体験として素晴らしいです。ヘヴンです。超気に入りました。」

杜塚さん
-GQ Blend Classic English
「GQ Classic English はきわめて複雑なブレンドだと思う。かなり強烈なスパイシー、スモーキーな喫味、甘味、清涼感、後を引く煙草感、ナッツやシナモンのニュアンス、などなどが絡み合い、吸うたびに味が変わるように感じられるほど。そして、どの瞬間も文句なく美味い。」「ただ、流して吸うと、その複雑さの奥から湧き出てくる美味さに気づきにくいかもしれない。一定の集中というか、吸ってる人間の側から積極的に煙草に対してアプローチすることが求められる、という意味でGLPのブレンドに近いように感じる。」
-GQ Blend Sugar & Spice
「GBD Pedigree 1451 で GQ Sugar & Spice」「アンフォーラにも似た穏やかな着香と甘さがまず最初に来て、その背後には山椒を思わせるようなピリッとした風味がある。そして、中盤から終わりにかけてスパイシーさが高まっていく、といった具合。まさにシュガー&スパイス。着香の塩梅は絶妙で、ド着香でも微着香でもない。」「ハードコアなアンチ着香スモーカーのための着香煙草、との説明通りのブツでした。これも実に美味い。分かりやすさと適度な軽さ、味の変化があって、こういうのを常喫用というんだろうなあ、という感じ。それにしても、GQの使うオリエントは相当スパイシーだなあ、という印象を受ける。」
-GQ Blend Classic Balkan
「GQ Classic Balkan が届いたので吸う。これは、パイプ煙草はどのようにあるべきか、という問いに対する解答の一つになりうるブレンドだと思います。」「GQ Classic Balkan はマクレー緑缶8番にラタキアを積み増した、といった印象。オリエントのスパイシーな甘味とエキゾチックな香りが前面に出ていて、その裏にラタキアの薫香が消えたり現れたりする。Classic English と対照的にシンプルで、ディープ。」「ヘヴィではなく、むしろ軽やかな煙草だと思う。なので本読んだり音楽聴いたりする妨げに全然ならない一方で、味と香りに意識を向けると果てしなくディープというかドープなところに意識がずるずると滑り落ちて行くような感じもする。嗜好品としての煙草の美味さと危険さが凝縮されている。」

@satoh_toshiさん
-GQ Blend Classic English
「今、Classic English を吸ってるんですが、序盤はシガーリーフの味(ナッティー?)が特徴的で、中盤では、フルーティーが前に来たり、混ざり合ったり、美味しいですね〜^ ^」「自分は、最初「何か違う」と感じて、obさんのブログを読み直して、納得しながら、ニヤニヤしながら吸ってます^ ^」「自分のような、初級者でも、「ブレンドの妙」を素直に感じられるってのは、ありがたいタバコですね^ ^ 是非お試し下さいませ。」

昨今の日本のパイプスモーキング界について

6月 8th, 2013

ここ最近、インターネットのブログ等を回って見ていると、何か以前よりもゆったりと気負いなくパイプを楽しんでいる方々が増えてきたようにも思えます。実によいことです。

僕がパイプを始めた頃(2005年ぐらいだっけ)は、なんというか過渡期というか混濁期というか、日本のパイプスモーキング界隈は結構ヤバい状況でした。古色蒼然というか千年一日というか、やれ<カーボンを早く付けるにはボウルに蜂蜜を塗ればいい>とか、<煙草は三段詰めにするのが故アルフレェエッド・ドゥンヒル卿の教えだ>とかのクソの役にも立たない古臭い風習がしつこく残っている一方で、とある業者がやれ乾いたブライヤーは美味いだの吹聴すれば誰もがこぞって手持ちのパイプを乾燥剤入りのタッパーにしまいこんだり、とある彫り物職人がパイプのラジエーター効果だのと言い出せばたちまち気味悪い文様が入った白木パイプがブログを賑わせたりと、とにかく古いオカルト・新しいオカルトが入り混じり、迷信・盲信がカオスとなって初心者を惑乱。結果僕らをして「パイプを楽しむ」というところから遠ざけに遠ざけていた状況だったのです。こんなんじゃゆったりと煙草を味わえるわけはねえよ。

かくなる状況はクソ・ダセェ、俺ぁこいつらとは係わり合いになりたくねえでござんす、と思った僕は情報源を海外のフォーラムやウェブサイトに求め、その結果ビンテージパイプなる趣味を見つけてそこに深く耽溺することになったわけですがそれはまた別の話。国内でも数少ない正気の方々がブログやツイッター、さらにはオフミーティングなどで地道に啓蒙活動を重ねた結果、今ではこれらのうちかなりの迷信やオカルトを克服できたように思えます。それが前述したゆったりとパイプを喫っている、趣味として確立したパイプスモーキングを楽しんでいる人たちが多く目に付くことに繋がったのかなあ、と。

僕に言わせれば、パイプスモーキングなんて大して難しいものじゃありません。そりゃ初心者の頃はジュースを沸かせたりパイプを焦がしたりで、勿論それでは煙草を味わうまでにはいかないでしょうが、そんな時期は向上心さえ忘れなければ数年で終わります。考えてみれば簡単なことですが、パイプなんて大して複雑でもない構造物で、適切に煙草を詰めて適切なスピードで吸ってやれば美味く吸えます。そこには摩訶不思議な深遠なる賢者たちの知恵も妖精たちの妙なる魔法もありません。ロマンチックではありませんが単なる物理法則の結果として、パイプは美味しく吸えます。ホントそれだけの話です。

思うに、これまでの日本のパイプ界は「いかにパイプを上手に吸うか」ということに拘泥するあまり、その先に広がる豊かな世界を見ずに来ていたのではないか。喫煙技術は重要ですが、パイプスモーキングに於いてパイプの扱いとはあくまで従の要素に過ぎないものであり、<味わうこと>の主役は煙草です。煙草を知ることこそ、真にパイプスモーキングを楽しむための入り口になると考えます。このブログでも、そこにスポットを当ててエントリを書いていくことになると思います。

現在気に入っているパイプ煙草

6月 8th, 2013

僕が現在気に入っているパイプ煙草のリストです。

  • Mclelland Oriental No.1
  • Mclelland Oriental No.6
  • Mclelland Bulk 2020
  • Gawith Hoggarth Curly Cut Deluxe sliced (CCD)
  • Gawith Hoggarth Rum Twist unsliced

見ても分かるとおり、マクレーランドとガーウィズ・ホガースの煙草に集中していますね。マクレーランドはアメリカのクラフト煙草メーカー(趣味的で高品質なプロダクションを目指す小規模メーカー)の祖にして雄、そしてガーウィズ・ホガースは北イングランドの歴史ある煙草メーカー。この二メーカーがお気に入りなのはハッキリとした理由があります。そのことについては長くなるので各煙草のレビューを書きながらおいおい説明していきます。