ここ数年『グランド・オリエンタル』シリーズから『マチュアード・バージニア』シリーズ(茶色缶)、そしてある種究極の常喫用オリエンタル・ブレンドとも言える『オリエンタル・ミクスチャー』シリーズ(緑缶)を経て、<アメリカのクラフト・タバコの祖にして雄であるマクレーランドこそ究極の趣味的パイプタバコ・ブランド>という考えに落ち着いていたoldbriarsですが、最近になってちょっと風向きが変わってきました。
きっかけは最近お会いすることが多いきむぞうさん(http://ameblo.jp/kimuzo777/)より頂いた、ビンテージ缶のSt. Brunoで、これを吸ってみたところ「イギリスにもこんな深い味わいのバージニア・タバコがあるのか!」と目から鱗状態でした。ことバージニアに関してはサミュエル・ガーウィズの二大人気ブレンド(Full Virginia FlakeとBest Brown Flake)が個人的にあまりパッとせず(美味いことは美味いんですが…)、もうひとつの有名ブランド・ラットレーズのブレンドがどれも肌に合わなかった(ドイツ・コールハス製のタバコの独特の白粉臭?がダメ)ので、「英国タバコには大したバージニアブレンドがない」という固定観念にとらわれてしまっていたのですが、St.Brunoはそんな僕の蒙を啓いてくれたのです。St.Bruno自体は日本にもつい最近まで入ってきていたので、灯台下暗しといえばそうなのですが、創業時のマクレーランドが復刻を目指したという<古きよき英国産のバージニアブレンド>とは、実のところこのあたりのタバコのことを指していたのではないかと思うに至りました。
個人的にパウチ入りのタバコは安物の着香煙草ばかり、というイメージがあり、ガチの着香煙草が苦手な僕はパウチ入りたばこに変な先入観を持って遠ざけていたというフシもありました。慌てた僕は、
『―これはいけない、こんな美味いタバコがパウチという最も簡便なパッケージで売られているのは、イギリスのごく普通のスモーカーの味覚レベルというものはやはり尋常なものではなかったのだ、いや最もポピュラーで最も簡便であるからこそ、彼の国では最も優れた製品が要求されるのだ。イギリス侮りがたし。アメリカの趣味人の教養や熱意にはこのoldbriars、敬意を素直に表するが、それと同等の熱情がごく一般的な大衆の中に自然体で存在する英国こそやはりパイプスモーキングの本場であったか』
などとブツブツと考え、当然の仕儀としてイギリスのパウチ物パイプタバコをしこたま買い込むことと相成りました。
Manchester Tobacco “Revor Plug” (Gawith Hoggarth production)
GQ Tobaccosのウェブショップでまず僕の目を引いたのがこのRevor Plugです。本当に地味な、なんの変哲もないどうでもいいデザインのクリーム色のパッケージ。ただ僕が注視したのは、このタバコが現在は僕が絶大な信頼を置いている英国・ケンダルのガーウィス・ホガース社の生産になっているということでした。調べたところによるとこのRevorは英国中部の都市マンチェスターに存在したマンチェスター・タバコという会社のブランドで、会社は1990年代に日本のJTに買収されたあとに工場は閉鎖され、レシピがガーウィス・ホガースの手に渡っていまだに生産が続けられているようです。GQ Tobaccoの説明に従えばバージニア+ケンタッキーの葉組みに<レイクランド香>でわずかに着香されているそうで、グリン君の言によれば「地味~なタバコで英国でもそんなに出るタバコじゃないよ」とのことでした。
いざ現物が届いて吸ってみると、これが大・大・大・の大当たり!いままで体験したことのない味わいの素晴らしいタバコでした。馬鹿な表現ですが、素晴らしく甘く、素晴らしく深いだけでなく、フルーティで花の香りのレイクランド香の中毒性があり、まごうことなきガーウィス・ホガースのバージニアタバコと同じ深いハービーな熟成感と、そしてボトムには同社の一部のロープタバコに存在するオイリーさまでが存在しているのです。まさに上から下への味覚の饗宴で、『この味がこんなにも地味で安っぽいデザインのパウチの中に詰まっているのか!』とすっかり腰を抜かしてしまった僕は、上に記したイギリスのパウチタバコに対する疑惑(?)を確信に変えるにいたりました。イギリスのパウチ物はヤバイ。
Ogden Walnut Flake (Orlik production)
次に試したのがこのOgden Walnut。Ogdenは英国リバプールに存在していた会社で、St.BrunoもこのOgdenの銘柄でした。ビンテージパイプ・コレクターの方々にはあのBarlingを買収した会社として聞き覚えがあるんじゃないかと思います。そのOgdenもImperial Tobacco傘下となり、1990年代までリバプールのファクトリーでの生産が続けられましたが、2007年に工場は閉鎖し、St.BrunoやこのWalnutの生産はデンマークのオーリック社に移っています。
St.Brunoと同じ会社の銘柄ということで期待しながら吸ったのですが、このWalnutも素晴らしいタバコでした。僕の大好きなマクレーランド MV No.27を彷彿とさせるような、深く熟成したバージニアタバコですが、St.Brunoほど強いタバコではなく、もう少し気軽に吸える感じではあります。
僕は現行のオーリック製のダンヒルタバコが大嫌いで、My Mixture 965などは生産がOrlikに移ってから吸ったのち、二度と買うもんかと誓ったくらいだったので、オーリック社の生産であることに一抹の不安を覚えなくもなかったのですが、St.BrunoとこのWalnutはまるで別の会社が製造しているのではないかと思えるくらい美味しいタバコです。
結論として、イギリスのパウチ物パイプタバコには素晴らしい銘柄、それもちょっと他では見つからないような独自性と、年月に研磨された洗練が両立した銘柄があるのだと言わざるを得ません。他にも有名な銘柄がまだいくつかあるので、これから順次試していきたいと思っております。また、英国から買い付けることになるので価格は米国タバコや米国流通のイギリス製タバコよりも若干(というよりかなり)高めになります。このエントリを読んで購入される方はご利用は計画的に(笑)。英国タバコの購入には先日エントリで紹介したGQ Tobaccosが便利です。
追記:Revor Plug を製造していたManchester Tobaccoという会社について調べてみたんですが、情報がほとんどありませんでした。分かったのはどうやらManchester TobaccoというのはイギリスCWS(共同卸売協会:生協のような組織)の煙草生産部門のようなものだったらしく、マンチェスターのルードゲイト・ヒルにはまだ当時のままのファクトリーの建物がそのまま残っています。ルードゲイト・ヒルの工場は1995年にトラッフォードに建てられた新工場によってとって替わられますが、オーナーであるJT(日本たばこ)の決定によりマンチェスター・タバコは売却が決定し、この新工場も2007年2月に閉鎖されています。こちらの建物は現在はEventCityというエギジビション・センターとなっています。CWSではRevor PlugのほかにMahogany Ready Rubbed、Centurion Mixture、Fulvous Mixture、Beechwood Cut Plugなどという銘柄を製造していたようです。往時の工場内の写真。