僕のビンテージパイプレストア最終回答

2月 24th, 2024

Ye olde briarsではさまざまなビンテージパイプのレストア方法を紹介していますが、200本以上のパイプをレストアした経験を踏まえて現時点での最終回答をメモしておきます。

【ボウル】
SAメソッド/塩使用/1D/3時間乾燥(省略可)

貝ナイフ系リーマーで徹底的にカーボン削る

煙道をアルコールモールで徹底的に清掃

SAメソッド/塩使用/1D/3時間乾燥(省略可)

Restoration balmで表面をポリッシュ

【エボナイトステム】
煙道をアルコールモールで徹底的に清掃

Extra Strength Deoxidizerに漬ける/1D/洗浄

Deoxidizerを適宜くり返す

エッジを養生して耐水ペーパー2000番(省略可)

サンライトプラ用コンパウンドでポリッシュ

【調整・修理】
・リップのエッジ立て
MF13→MF12で削る

耐水ペーパー2000番

サンライトプラ用コンパウンドで仕上げ

・リップの欠落
欠落部分を紙やすり320番で足付け

プラリペアを盛る

紙やすりで成形、2000番まで

【仕上げ】
pipe restration balmをステムとボウルに塗布

ウェスで磨く

乾燥して終了

【用具リンク】
Deoxidizer、restoration balm
マーク・フーバーさんが頒布しているエボナイトケア用品。Deoxidizer(変色除去剤)は数時間漬け置きするだけでエボナイトの変色を除去できる革命的な製品です。restoration balmはステム・ボウル(スムース・サンドブラスト問わず)の艶出しワックス。
https://lbepen.com/shop-5

ヤスリ MF12 MF13
パイプステムの細部を削るのに好適な模型用平ヤスリ。13が細目、12は仕上げ用。
https://mr-hobby.com/ja/product4/category_30/1443.html…

光陽社 コンパウンド
エボナイトステム・アクリルステムの艶出しはコレ。下地は1500-2000番ぐらいまで仕上げてあると作業が楽です。
https://koyo-sha.co.jp/general/sunlight.html…

プラリペア
硬化するとアクリル樹脂になる補修材。強度はかなりあります。「おゆまる君」などを利用して複製も可能です。使用法は説明書や公式ウェブサイトを熟読してください。
http://plarepair.net

Low country Reamer
パイプ作家アダム・デイビッドソンが開発した貝ナイフタイプリーマー。これが最強。日本で一番カーボン削ってるoldbriarsが言うんだから間違いない。刃はついていませんがカーボンケーキを削るのはこの鈍さが丁度いいのです。
https://www.smokingpipes.com/accessories/pipe-tampers-and-tools/moreinfo.cfm?product_id=202915

【補足】
・Oメソッド(オキシクリーン)は廃止
→あまり意味がないように感じるので。

・A/Rメソッドは廃止
→ 中古パイプの嫌な臭いの主原因は煙道内の汚れであることが判明したので、チャンバー内を必死にクリーニングする時間があったら煙道内に手をかけるべき。A/Rやりたかったらやってもいいですがこぼしてボウルのフィニッシュを損壊しないよう気をつけましょう。

・ステム全体のペーパーがけは禁止
→ Deoxidizerという革命的な資材が出現したので、エボナイトステムのレストアはいかにヤスらずに済ませるか、というステージに入りました。Deoxidizer使用後にエボナイト表面が荒れていたら、耐水ペーパー2000番水研ぎを軽く行う程度に留めます。

・Restoration balm以外のワックス、オイルは廃止
→ 設備があるのならバフモーター+カルナバワックスが最強。手作業で仕上げるのならrestoration balmひとつで十分です。

中古パイプの嫌な臭いの主原因は煙道内の汚れです。 徹底的にアルコールモール、煙道ブラシなどを駆使して清掃してください。 煙道内が詰まっている場合は3mm径のドリルビットを使うのも有効です。

ルーベン期のチャラタン。ルーベン・チャラタンの手によると思われる「Hooked」スタイルの急峻な曲げスタイルのステムを持つ44番ジャイアント・ベント。なかなかの状態だけれども磨けば光ると見込んで落札したもの。これはレストア前の写真。
ステムをDeoxidizerのプールにドボン。説明書には数時間とあるが1日漬けておいても問題はない。かなり粘つく液体なので引き上げたら綺麗に洗い流す。
ボウルはアルコールで汚れを落としたあと、restoration balmを塗り込んでは磨き、をくり返す。写真はたっぷり塗り込んで浸透させているところ。
Deoxidizerで変色を除去したステム。Deoxidizerとプラスチック用コンパウンドのみでこの状態。サンドペーパーを使用していないのでCPロゴが完全に保存されていることに注目。
レストアが完了したCharatan Selected 44。このページに書いてある方法以外使っておりません。…これが最終回答ってワケ。

2021年現在、お気に入りのパイプ煙草

2月 25th, 2021

変わっていくパイプ煙草シーン

数年前にいくつかのパイプ煙草関連のエントリを書いた時と、2021年となった現在ではパイプをめぐる状況というのは随分と様がわりしました。ひとつには、煙草の入手性の問題。それが起こる以前は想像もできなかったことですが、2018年にアメリカのクラフト煙草シーンの中心であり、業界を牽引していたマクレーランド・タバコ・カンパニーの廃業という衝撃がありました。そして英国の法改正により、英国国内の煙草販売業者は煙草を海外に発送することができなくなり、過去にこのブログで紹介したGQ tobaccoも“ブティック・タバコニスト”としての業態を諦めざるを得なくなりました。結果として素晴らしい銘柄の数多くが入手困難となったのです。

もうひとつは、ライフスタイルの問題。これは個人的なことですが、コロナ禍に先んずる2018年よりほぼ完全な在宅勤務に移行したことで、僕にとってパイプ煙草の重要性はいや増しになりました。幸いながら完全在宅でも支障がない業務なうえ、自室も特に禁煙ではないので仕事をしながらパイプを吸いまくっています(シガレットは止めてしまったので喫煙はパイプ煙草だけです)。このライフスタイルの変化は、煙草の好みにも深刻な影響を与えました。具体的には、以前はあれほど好きだったラタキアやオリエンタルが<まったくと言っていいほど>吸えなくなってしまい、かといって一般的なストレートバージニアは神経を使うので、それ以外のブレンドの中から飽きずに吸える銘柄のみを選んで偏愛している次第です。

こんな2021年に、僕が楽しんでいるパイプ煙草を紹介したいと思います。基本的に一日中パイプを銜えており、平均10ボウル程度を灰にしているので、何ボウルも吸っても飽きない銘柄が中心です。また前述の通り煙草の好みが変わってしまったので、ラタキア入り、オリエンタル入りの銘柄は除外されています(どちらの煙草葉も、一日1ボウル程度だったら実に美味しく吸えるのですが)。

・ガーウィス・ホガース エナーデール

「レイクランド煙草」にカテゴライズされる、独特な香料の使いかたが日本国内でも知られたイギリス煙草ですが、2020年になってようやく試してみたところ非常に気に入ってしまうという仕儀に相成りました。バージニア+バーレーをベースとして、アーモンド香料と数種のフローラルアロマの組み合わせで香り付けされていますが、いったいどういうブレンドの妙なのか、クリームソーダ(喫茶店で飲むあの懐かしい飲み物です)を彷彿とさせる甘い香りが楽しめます。燃焼特性も非常にすぐれていて吸いやすく、単純な味だけで言えばガーウィス・ホガース以外の他社製品含めレイクランド煙草の中でも1、2を争う美味さの煙草だと思います。かなり香りも味も強い煙草なので、ローテーションの中でここぞという時に1ボウルだけ楽しむという感じで吸っています。

・ガーウィス・ホガース No.7 ブロークンフレーク

これもレイクランド煙草ですが、こちらは常喫煙草として1日数ボウルは灰にするという、いまだかつてないほどお気に入りになった銘柄です。レイクランドの香りはバニラ+フローラルで、香り付けの強さは中程度。こちらも葉組はバージニア+バーレーでとても喫煙が楽です。以前には国内では名前も聞いたことがなく、そのそっけない銘柄名もあいまってガーウィス・ホガースのラインナップの中でも目立たない印象でしたが、試してみたらとても気に入ったので大量に購入して1年ほど熟成させたものを吸っています。熟成させるとさらに美味くなる点もすぐれています。自分にとっての福音とでも言える煙草です。

・ガーウィス・ホガース ブロークン・スコッチ・ケーキ

<ライトなストレートバージニアで特筆すべき点もない煙草>という紹介がなされることが多いこの銘柄ですが、僕の評価は異なっています。僕にとってこの煙草は<常喫向けに特化した、かなりハードなヘビースモーカー向け煙草>というもの。一般的なバージニアリボンのように甘ったるくなく、その奥底にはシガーやスワレを思い起こさせるかすかな渋みがあって、一日中吸っても飽きることがありません。軽いため連続して喫煙してもニコチンのオーバーロードを起こさず、パイプに極めて楽に詰められるところも、イライラして手際が雑になりがちな仕事中はうれしいものです。非常に地味な銘柄ながらわざわざ缶入り形態での販売もなされているのは、僕のようなヘビー(パイプ)スモーカーから一定の需要がある証左でしょう。特に吸いたい煙草が思いつかないときには無意識にボウルに詰めてしまうので、500グラムバッグがどんどん減っていくのを閉口しながらながめています。

・ガーウィス・ホガース スライスト・ブラウンツイスト

パイプ煙草のなかでも最も古い形態であり、葉巻と似た構造で煙草葉を縒りあげたうえ、加熱・加圧し熟成させるというロープ煙草ですが、今となっては往時の製法そのままの『本物の』ロープ煙草を作っているのは世界広しといえどもガーウィス・ホガースただ一軒でしょう。こと純粋に味だけで判じればこのガーウィス・ホガースのブラウンツイストこそ、複雑で奥深く滋味深く、<この地球上で一番うまい>煙草だと考えています。ただし非常にクセが強くニコチンも強烈なので、体調がよく気合も十分なときでないと吸う事はできません。そんな瞬間が訪れたときのために常備しています。「スライス」バージョンのコインカット形態はロープそのままのパッケージとは違い、軽く揉み解せばすぐ喫煙できるのでこの煙草の高いハードルを幾分下げるのに役立っています。

ガーウィス・ホガースの500gパッケージ。フレイクは箱、ミクスチャ類はプラスチックバッグで届く。

…蓋をあけてみればガーウィス・ホガースの煙草がずらり。とにかく大量のパイプ煙草を吸うので、500gという大容量でのパッケージが用意されているという利点はあるのですが、なによりも煙草の質(?)が性に合っているというのと、スモーカーによって好悪の差が激しいレイクランド・スタイルという煙草に全く拒否反応がない、という理由が大きいです。このブランドは北米のディストリビューターとの間に問題があって長いこと入手困難でしたが、去年(2020年)の暮、Smokingpipes.comを運営しているLaudisi Enterpriseが新たなディストリビューターとなったことが発表されました。これで入手がしやすくなれば大変ありがたいです。

マクレーランドやGQ Tobacco、そして英国パウチ煙草が入手不可能となったことはほんとうに残念です。がしかし、この痛恨事を我々パイプスモーカーを新たなるパイプ煙草探索の冒険へといざなう契機とみなすこともまた可能でしょう。ここでは特に触れていませんが、世界にはまだまだ優れたパイプ煙草が存在し、未だに体験したことのない味わいが隠れているのです。ライフスタイルの変遷もありましたが、個人的にも味覚の充実という意味では2021年の現在こそが最もパイプスモーキングを楽しめている時期かもしれません。

「ブライヤーの真実」ロバート・C・ハムリン/PCCA(アメリカ・パイプコレクタークラブ)

2月 23rd, 2021

(以下の文章は随分昔に訳出して、OBスレに投稿したものですが、現在読んでも十分ためになる文章なのでブログにまとめておきます。ロバート・C・ハムリン氏はPCCAの中心人物で、以前はpipeguyというウェブサイトも運営されていました。oldbriars)

質の高い煙草を用い、パイプを清潔に保つことももちろん重要だが、ブライヤーのキュアリングとパイプの構造は、パイプの吸い味に関する重大な要素であり喫味に実際に影響をもたらす。ブライヤー・キュアリングは質の高いパイプを製造する過程における唯一ののステップである。キュアリングはあるパイプがどのようにブレイクインを終え、どのように熟成するかにおける非常に重要な要素である。煙草の味を最大に楽しむ上で、熟成された葉を選択することと同じくらいの重要度で、熟成されたブライヤーパイプは煙草の最終的な喫味にさらなる味を追加するのである。

熟成されたパイプとはどのようなものであり、どうやって熟成を達成するかという問いに答える前に、どのようにブライヤーが処理されてパイプとなるのかを知る必要がある。

ブライヤーは伐採所(sawmill)で根瘤(briar burl)として収穫されたのち、裁断され等級付けされる。ほとんどのブライヤーは50から75年の樹齢で、サイズはバスケットボールほどだ。伐採されたのちもこれらのブライヤーはまだ生きており、一様に表面から青いひこばえを伸長させる。根瘤は切断され、等級付けされ、大きさを計測されたのち、沸騰した湯の中で殺(安定化)されるのである。
煮沸されたブライヤーは再び等級付けされ、麻袋に詰められたのち、パイプメーカーに出荷される前に最低一年間の空気乾燥にさらされる。この最初の空気乾燥は後々第二ステージのキュアリングを施されることを前提としたものである。パイプ作家は18ヶ月から24ヶ月乾燥されたものを選択し、マスプロメーカーは最大で12ヶ月乾燥されたものを使用することが多い。

この時点で注意すべきは、ブライヤーは伐採所の職人によって大きさ、グレイン、重さ、そして色などで等級付けされるということである。質がまちまちなブライヤーは値段が安く、グレインの良い大きなブロックは最も高価となる。いくつもの麻袋から手ずからブライヤーブロックを選り抜くならさらに値段は高くなる。

パイプメーカーがブライヤーを選んだのち、甘い煙を確かなものとするために追加キュアリングが行われる。全てのパイプ作家がブライヤーブロックをエアキュアしている。この追加エアキュアの期間はパイプメーカーによって異なり、1年から6年の間の差がある。BonfiglioliやBeckerなどの小規模メーカーは1年間ブライヤーを保持し、Ashtonは2-3年、Castelloなどの大規模メーカーはブロック購入後3-6年のエアキュアを行う。

パイプメーカーはユーザーの第一印象が長く尾を引くことを認識している。もしスモーカーが ブレイクインが大変だったり、最初の期間に辛さを感じたりすれば、その人はそのブランドを避けるようになってしまう。逆にブレイクインしやすく、最初の一服から甘い煙が楽しめたなら、その人は次も同じブランドを購入するだろう。キュアリングのさまざまな工程は、ブライヤーブロックがパイプとなる以前から、ブレイクインしやすく「熟成された」パイプを作ることを目的としたものなのである。

「熟成された」パイプとは完全にブレイクインが終了したパイプのことであるが、それを達成する方法とは何だろうか。明確な答えとしては、パイプを吸い続けて新しいブライヤーの辛さがなくすことである。これは通常あまり楽しい経験とは言えず、パイプスモーカーが好むものではない。もしホットで辛い新品パイプの味の原因が分かれば、その対策も取りやすくなるだろう。

ブライヤーも木である以上はタンニン酸(Tannic acid)を含む、といったら驚かれるだろうか。タンニン酸は若いバージニア煙草や収斂性のある未熟成の赤ワインの辛さと同じものである。一般的な植物や木、たとえばオークなどは高濃度のタンニン酸を含んでいる。色々な自然生成の酸が食べ物の中には見られる(たとえばビタミンCも酸の一種である)が、多くは気付かれないか、もしくはその食べ物の味わいにプラスとなっている。オレンジの酸っぱさは柑橘酸によるものだ。この酸っぱさはオレンジの味の重要な一部となっているが、もし100度c近くにまで加熱されたならオレンジジュースや赤ワインを楽しむことはできなくなるだろう。

ここで、未成熟のブライヤーをパイプに使用する際の問題が露になる。つまり「加熱された酸」である。ほとんど全てのパイプタバコ(特にフルフレーバーの非着香タバコ)にもタンニン酸は含まれており、その燃焼には最低でも摂氏150度以上の熱を必要とする。ここにブライヤーに含まれるタンニン酸のことを考慮に入れれば、なぜ真新しいパイプのブレイクインに「ホットで辛い」煙がつきものなのか容易に理解できるだろう。

パイプメーカーはブレイクイン時の不快な味を抑制するために色々な小技を施す。中でも多いのが、燃焼する煙草とブライヤー肌の接触を少なくする方法である。「プリ・スモーク、ブレイクイン不用」といわれるボウル・コーティング、蜂蜜やオリーブオイルをボウル内に塗布する方法が一般的だ。最上の方法は最も自然なやりかた、すなわち酸が単に熟成して分解するのを待つ方法、若い赤ワインの鋭い味がソフトな味に成熟するのと同じプロセスである。もしパイプメーカーに、4-5年の間ブライヤーをストックしておける余裕があるなら、それがタンニン酸を自然に成熟・分解させる最も簡単な方法である。

オイル・キュアリングはアルフレッド・ダンヒルによって初めて開発され、ブライヤーから余計な樹液(酸)を取り去り、ダンヒルのパイプのブレイクインを簡単なものとせしめた方法だ。現在では現行ダンヒル、セル・ヤーコポ、ファーンダウンのパイプがオイルキュアされていると宣伝されている。実のところ、これらのパイプは皆オイルを塗布して加熱処理を施されているだけで、筆者の知る限り、現在のマーケットで手に入るものではアシュトンのブライヤーのみが真のオイルキュア・パイプである。

真のオイルキュアは、ブレンドされたオイルの中に未処理のボウルを漬けることによって行われる。オイルに漬けられたブライヤーボウルは次に加熱されたペグに移され、14日間、エアキュアでは取り去ることのできなかった樹液を完全に除去されるのである。オイルキュアリングの第一の利点は、樹液を完全にブライヤーから除去し、辛さを取り去ることである。第二に、ブライヤーを少しだけ熱に強くする作用があり、パイプが焦げるのを防止することができる。短所としてはオイルの味が処理後も残ってしまうことだが、このオイルの味はブレイクインが完了すれば消失する。とはいえある種の人にはこの味は不快なものと取られるかもしれない。

ブライヤーをブレイクインする真の、そして唯一の方法はそのパイプを吸うことだけである。もし前もってブライヤーがどの程度成熟しているかわかるのなら、ブレイクインの進捗具合に手を加え、ブレイクインを簡単にすることができる。筆者が最近試した二本のカステロは最初の一服からすばらしいの一言だった。苦痛がなく、辛さもなく、不快な味もしない(私は過去に非常に辛いカステロを持っていたこともある)。アシュトンのパイプはいつも辛さがなく、(オイルの存在を思い出させる)少々人工的な味わいが印象的なので、私はより自然に思えるオールド・チャーチ・フィニッシュを選択することが多い。また、スムースの、アシュトン・ソブリンはオイルの味があまりしないように思える。

セル・ヤーコポ、カミネット、ラディーチェ(訳注:ラディーチェはオイルキュアのラインも存在した)のようなエアキュア専門のメーカーは平均的な味わい(すごく悪くもないが、素晴らしくはない)である。表面的なオイル処理を行っている最近のセル・ヤーコポ、現行ダンヒル、ファーンダウンはブレイクインが簡単だ。チャラタン(古いものも現行のものも)、アップシャルはブレイクインのしづらさが有名だが、それが終わればかなり激変するという評判がある。(この結論にはパイプ毎に異なり、同メーカーといえども例外はあるだろう。)

サビネリ、ピーターソン、GBDのようなマシンメイドパイプは追加キュアリングが施されていないため、少々の努力を要することになるだろう。だが筆者のコレクションの中で最も美味いパイプはサビネリのジュビリオ・ドーロなのだ。このパイプは1974年に購入したものだが最もブレイクインしづらい類の一本で、ずいぶん苦労した。しかし一旦熟成が済むと、飛びぬけたパイプとなったのだ。追加キュアリングがなかったがための苦労である。ブレイクイン時の苦痛を和らげるためにはマイルドな煙草をゆっくりと吸えばよい。最初の2-3ボウルを酸の少ないブレンドか、バーレー・ベースの煙草を用いて優しく吸えば、他の煙草を楽しむことができるようになるだろう。

火皿形状というものも、実際には煙草の最終的な味わいに大きな重要性を持つにも関わらず、一般的には見過ごされている。ポット・シェイプに見られるような口径が広く底の浅いボウルは煙草を適切に詰めるのが非常に難しい。逆にチムニーやスレンダー・ビリヤードのような口径が狭く底が深いパイプを適切に詰めるのは最も簡単である。完璧な火皿は、トップからゆるやかにテーパーし、ボトムで幅が狭くなるものである。

火皿は、ひとえに煙草を適切に詰めるために色々なバリエーションが存在する。適切に詰められた煙草はタンピングや再着火をそれほどせずとも均等に燃焼する。きつ過ぎたり緩すぎたりすれば煙は熱くなる。といってもポット・シェイプが駄目というわけではなく、最も適切に吸うのが難しいことに注意すべき、というだけである。

個人的には、もっとも注意を払うべき箇所は煙道がボウルボトムに開口する箇所だと考える。完璧な煙道の開口のしかたとはボウルの中心に、すこしだけ上部に開いたものである。左右へのズレはパイプがどういう味になるかということに全く関係しない。ボトムより少し低く開口した煙道は強めにタンピングすると詰まることが多く、ジュースを生じやすい。あまりにも高いところに開いた煙道は最後に燃えさし(あまり無理して吸う人もいないが)が残ってしまうことになるが、低く開口したものよりマシだといえる。皮肉なことに、多くのパイプスモーカーが少しだけ高く開口したパイプよりも、低く開口したパイプを理想として珍重している。

もうひとつの世間に流布した誤解は、火皿内のカーボンケーキの価値についてである。私は火皿がほとんど埋まり、煙草をほんのちょっとしか入れる場所がないほどカーボンがつけられたパイプを見たことがあるが、このような習慣はブライヤーに害をなすというだけではない。では他の点とはなんだろうか。

こういったカーボンケーキが溜まりに溜まったパイプのオーナーは素晴らしい味わいがする、と断言する。しかしいったいどうしたらそれが分かるのだろう?三服もすれば煙草は全部燃焼してしまうだろう。私が指摘したいのは、このような喫煙によってボウル内に蓄積されたカーボンケーキにまつわるマジカルな考えはどのようなものであれ、真実なものはひとつもないということだ。

薄いカーボンケーキをボウル内につける理由はただ一つ、300℃を超える燃焼する煙草の熱からむきだしのブライヤーを守るためである。煙草の味わいに変化をもたらし、水分や熱を吸収するのはブライヤーなのである。もしカーボンケーキがブライヤーよりも優れた素材なら、全てのパイプはカーボンで作られ、私たちはキュアリングやらグレインやら作家パイプやらに気を回す必要はなくなってしまうだろう。

カーボンケーキにはマジカル・パワーなどは全く存在しない。秘密の味わいも、香りの増幅も存在しない。ただ単にヒートシンクであるだけだ。

煙草の詰め方は大半のスモーカーが考えているほど単純なものではないし、色々な説が示唆するように難しいものでもない。適切な詰め方とは、煙草のタイプ、ボウルの形状によって変わってくるものなのである。背の高いボウルを小さなボウルと同様に詰めることはできないし、口径の大きいポット・ボウルはダブリンやクラシック・ビリヤードと同じように詰めることもできない。適切な詰め方のコツのヒントは、喫煙中に煙草が燃焼する状態にある。燃焼の遅い、圧縮されたフレイク煙草を広いチャンバーにきつく押し込んだら燃焼は非常に難しくなる。詰め方は煙草の火が次の煙草の層に移るために必要なだけ固く(風切音が出るようではいけない)、そしてある程度自由に燃焼することができるだけ緩い必要がある(頻繁にタンピングする必要はない)。固すぎたり緩すぎたりすると再着火の頻度が高くなり、吸い吹きも強くなり、ボウルが熱くなってしまうことになる。

私たちのパイプは生きた木の球体からできたものである。生のブライヤーは伐採所やパイプメーカーの手によって数度にわたって処理され、キュアされ、長年に渡って楽しめる高品質な製品となるのだ。

最終的なキュアリングとは、新品のパイプを手にしたオーナーに委ねられている。最初のブレイクインが終了すれば、あなたは完全に熟成した完全にキュアされたパイプを手にすることになるだろう。あなたのパイプは生の素材から職人の手を経てオーナーに手渡されたもので、そのどの過程にも新しいパイプを楽しめるように、という意思が存在しているのだ。

defaulteyecatch

Foundation by Musico

3月 10th, 2019

最近ハマッていて、こればかり10本ほど買っているイタリアのセミハンドメイド・パイプブランド、Foundation by Musico。

musico roaster

好きが高じてSmokingpipes.comでこれまでに売れたパイプの写真のアーカイブを作っております。

こちら

このブランドに関しては近いうちにその魅力をお伝えできるような記事を書きたいと思っておりますがなかなか。

追記:Becker and Musicoのサン・ビンチェンツォ通りの店舗は2018年11月に閉店となり、30年以上の歴史に終止符を打ちました。新たにトリノ近郊の町イヴレーアに工房を移転して、Foundation by Musicoのパイプの製作は続けられています。

defaulteyecatch

ライアン・オールデン:常に価格以上の価値を求めて

8月 14th, 2015

円安が続き、海外のパイプショップに並ぶパイプがどれも3割ほども値段が上がったように感じる昨今ですが、パイプコレクターの皆様はいかがお過ごしでしょうか。もはや我々は1ドル=70円台だった世界とは別の世界に生きているといっても過言ではありません。数年前の500ドルのパイプはもはや500ドルではない。何を言ってるのかわからねーと思うが。でもお目当てのパイプの値段を毎回計算機で円に変換しては「ウッソー」と叫んでいる方も多いのではないかと想像します。

というわけでいきなり金の話から始まりましたが、こんな世知辛い世の中じゃ600ドル、800ドルなどという立派なプライスタグを掲げるハイグレーダーのパイプ(今ついつい頭の中で円に変換してしまった人は正直に言いましょう)よりも、ついつい売出し中の若手作家の作品に目が向いてしまうのは致し方ないこと。しかしこちらのほうも掛け値なしにバリューが高いと思えるものはほとんど見つかりません。世界的なパイプスモーキングの盛り上がりとそれに伴うハンドメイド・パイプ需要の高まり(eBayでのビンテージ・パイプの相場も随分と騰がりました)もあって、若手パイプ作家といえどもなかなかのお値段をつけていることが多く、しかもその作りやシェイプには若干不安を感じさせるものが散見されたり、ひどい場合にはこの値付けはインチキじゃねーのと言いたくなるようなのが混ざってたりもします。

これじゃあ買えるパイプがねえじゃねえか。
円高時代にヘタに目を肥やしてしまったのが運のツキとも言えます。

…そんな厳しい状勢にも拘わらず、最近僕が立て続けにパイプを購入している作家さんがおります。
その人の名はライアン・エドワード・オールデン。アメリカはテキサス州ダラス在住の現在35歳、フルタイムの専業パイプ作家です。ブランド名としてはR.E.Alden Pipesとなります。まあ論より証拠と言いますので、僕の購入したオールデン・パイプを見ていただきましょう。

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最初にショップで見つけて購入したビリヤード。ステムは白アクリルでアフリカン・ブラックウッドのリングが入っているが、バレルタイプのスタウトなボウルに太目のシャンクでファット系ビリヤードお手本のようになっている。

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こちらはコミッションで作ってもらったロバット。ちょっとステムが長めではあるが、ファット気味なシャンクもあいまって非常にバランスのとれたロバットになっている。ブラストも最高。ちなみにライアンの作るアクリル・ステムは非常に出来がいいので、エボナイト派の僕には珍しくわざわざアクリルで作ってもらいました。

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こちらは届いたばかりのスタウト・ビリアード。全長10cm強のノーズウォーマーです。こんなにコンパクトなパイプでも、全体のバランスが崩れていないところに注目。

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リップボタンのアップ。こちらは旧仕様のボタンですが、容量は大きくVスロットも非常に長く取られています。ロバットようなショートステムの場合、煙道は全てフレアで占められるほど。

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ジャンクション部のアップ。高い精度が一目瞭然。エッジもビシッとしていて気持ちがいいです。

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サンドブラストのテクスチャ。ディープでクラッギーですが、変なわざとらしい人工的なグレインを強調していないのが僕の好みです。

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作家物にはきわめて珍しい、ジャンクションまで全部ブラストされているシャンクエンド。ライアンによれば、オールドダンヒルなどのビンテージ・パイプ・コレクターにアピールすることを狙っているそうです。

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ライアンの最新のカラースキームである『ブリンドルブラスト』。深みのあるレッド系ブラウンのステインに、カンバーランドステムの組み合わせ。非常に魅力的なフィニッシュ。

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こちらがライアン自慢の最新仕様のリップボタン。リップスロットの幅が増し、ハイグレーダーの多くが採用する形に近くなっています。もちろん非常に快適で、クレンチにもリップホールドにも両対応。

ご覧の通り。ライアン・オールデンの魅力は、1) 美しいクラシックシェイプ、2) トップクラスにクラッギーなブラスト、そして3) 入念に作り込まれたエンジニアリングサイドの三本柱です。

シェイプとブラストに関しては上の写真で十分に納得いただけるでしょう。ビリヤード・ボウルはカッコ良く作るのが最も難しい部類のボウルです。三本とも奇しくもビリヤード系のシェイプですから、クリーンなシェイプ感覚、それでいて味わいのある曲線の使い方など、オールデンのクラシックに関する造詣の深さが容易に見て取れると思います。

ブラストはアグレッシブで、しかも変に整ったグレインを強調しないナチュラルにクラッギーなタイプ。本人がブラストフィニッシュが大好きなせいか入念な仕上げで、業界でもトップクラスのブラストを行う作家の一人と言ってもさほど誇張ではないでしょう。

エンジニアリングに関しても非常に丁寧で、細部まで手の届いた仕事が印象的です。カッチリした危なげのないフィッティングに加え、エアフローの良さもリップの快適さも非常にレベルが高いです。

バリューとかお金の話でこの項を始めましたが、ここまでこの記事を読まれた方は僕が強調したいのはオールデン・パイプの値段ではなく、卓越したクオリティのほうだということにお気づきになられているでしょう。実際ただ単にお買い得だからという理由で、三本タテに同一ブランドのパイプを購入するほど僕は酔狂じゃあないのでござる。端的に言えば、ハイグレード・パイプの属性をことごとく備えていながら、ハイグレーダーの半分ほどの価格で買える驚異のブランド、それがライアン・オールデンのパイプなのです。

このあたり、いったい何がどうなっているのか、ライアンに直接チャットでインタビューしてみましたので以下の訳文をお楽しみください。

ライアン・オールデン インタビュー

――oldbriars:まず自己紹介をお願いします。パイプメイキングに足を踏み入れるきっかけはなんでした?また、パイプ製作は誰に習いました?

ライアン・オールデン(以下R):僕の家には小さいころからずっと作業場があってね、親父は暇なときはいつもそこでちょっとした家具、机とか本棚とか額縁なんかを作ってたんだ。だから僕は工具と木工に囲まれて育ったってことになるね。18の時にパイプスモーキングを始めて、それ以来ずっとパイプが大好きだし魅了され続けてる。パイプスモーキングの歴史とか逸話はいつだって僕の興味をそそるものだったんだ。
32歳のときに職を失って、これからは上司の機嫌が悪い日にクビになりやしないかヒヤヒヤするようなことがない、何か自分ひとりでできる仕事をやろうって決めたとき、パイプを作ることを試してみてもいいんじゃないかって思ったんだよ。僕は何年もずっと、古いパイプを買ってはレストアしていたからね。それで大型トレーラー(日本では何ていうのかな?アメリカじゃ18ホイーラーとかローリーズって呼ばれてるでっかいやつだよ!)の運転手をしながら、自分の時間はすべてパイプ製作に関して手に入るあらゆる情報を集めることに費やしたんだ。

一年間調べられることはすべて調べ尽してから、僕は一本目のパイプを作った。そしてそのパイプを持ってシカゴショーに行ってみたんだ。そこで僕が出会ったのはラッド・デイヴィスをはじめとする数々の偉大なパイプ作家たちだった。特にラッド・デイヴィスは僕のパイプを気に入ってくれて、ショーの間いろんな人々に僕のパイプを見せて回ってくれた。ショーが終わっても僕はラッドと頻繁に電話のやりとりを続けて、色々難しいポイントについて質問をしたりした。彼は僕がパイプ製作一年目に訪れるさまざまな障害を克服するのを手伝ってくれたんだよ!

次の年のシカゴショーでは、プリマル・チェダに話しかけてみたんだ。それ以来、プリマルは僕にとって友人であり先生でありそれ以上の…兄貴のような存在になったんだ。彼は毎年僕を一週間ほど自分のワークショップに招待してくれてね。プリマル本人やビル・シャロスキー、そして<スモーカーズ・ヘイヴン>に立ち寄る才能あふれるパイプ作家たちに交じってパイプ製作することは、他の何物にも比べられないほど大きな影響を僕に与えたんだ。僕のパイプの構造やドリルのやり方の基準は、プリマル・チェダが高品質なパイプに求める厳しい基準そのままのものなんだよ。

プリマルとビルと過ごした時間以外では、ブルース・ウィーヴァーの作業場で何日か過ごしたこともある。それと、僕と同じくテキサスに住んでるマイク・ビュテラ(!)からもいろいろな知識を教えてもらったことがあるよ!

――oldbriars:Alden Pipesのアルバムを見るとクラシックシェイプが大半を占めていますが、クラシックシェイプは好きですか?また、ブロウフィッシュとかピックアックスのようなよりファンシーなシェイプを作る予定はありますか?

R:僕はクラシックシェイプの単純さが大好きなんだ。完成したカタチと完成した機能がひとつの美しいオブジェの中にきっちりと納まっているのを見るのはとても楽しい。
もちろんアーティスティックな観点からカタチを作り出しているモダン・シェイプも大好きだよ。僕は段階的にシェイプの幅を広げていこうと思っている。僕はこれまで、ひとつひとつシェイプが備える構造をマスターしてからそのシェイプをモノにしていく、ということに注力してきたんだ。僕のパイプはどのパイプだってまず喫煙の道具であることが優先されるのさ。美しさはその後の話だ。<世界で最も美しいけれど煙道が狭すぎるバレリーナ・シェイプ>なんて、僕には意味がないものに思えてしょうがないんだよ!

<道具としての側面が優先>のちょっとした例だけど、僕は以前も良いリップボタンを作ってきたと思う。高さが高すぎず、長さが短すぎず、形がよく、さっとに唇になじむやつをね。でも僕はもっと完璧でベストなボタンを作りたかったんだ。だから僕はリップボタンを、今の僕の目に完璧だと思える形に変化させた。リップボタンなんてパイプ全体からみればほんの小さなパーツだけれど、それでも最も重要なポイントのひとつなんだ。ぼくがここ数年集中していたことはパイプの細部を完璧にすることだった。今はもうすごく満足のいくリップボタンが作れるようになったから、これからはシンプルなビリヤードからアシンメトリックなブロウフィッシュまで、僕が作るどんなパイプも研究の成果の恩恵を受けることができると思うよ。

こういった細部に関することには自分でも満足できるようになったから、そろそろ新しいシェイプをお見せすることができるんじゃないかな。

――oldbriars:個人的には、Alden Pipesの値付けは品質に比べてちょっと安すぎる気がします。こんなお手頃な値段をつけている理由があれば聞かせてください。

R:価格を上げていくのはできるだけゆっくりとやっていこうと思ってるんだ。僕は自分のパイプが<悪くない値段>であって欲しいんだよ。僕はこの点こそラッド・デイヴィスが素晴らしい成功を収めた秘訣だと思うんだよね。彼の作るパイプはいつでも彼が設定する価格以上の価値があったじゃない? ああいうのが僕の理想なんだ。僕が自分のパイプにどんな値段をつけようとも、いつだってそのパイプには必ず価格以上の価値がある、っていうね。

それと、僕はとってもいいお客に恵まれてるせいで価格を低く抑えられてるってところもある。僕はほとんどのパイプを直接お客に売ることができてる。これって言うほど簡単なことじゃなくって、写真を撮ったりメールに返信したりと余計な手間もかかるんだけれど、でも僕はお客と直接話をしてお客のことを知るのが大好きだから、そこは問題にはならないんだ。間に小売店が入ってマージンを取られることがないから、これまで価格を低く抑えることができてる。こういった感じで商売が続けられてるかぎり、僕のパイプはこれからもずっと<悪くない値段>だと思うよ!

――oldbriars: Alden Pipesの内部エンジニアリングは非常に素晴らしいものですが、良いパイプを作るために最も重要視していることはなんですか?

R:一番手間がかかるのはステムの内部の諸々、特にリップ手前1インチは一番重要な箇所だけど、でもパーフェクトな喫煙体験のためには煙道の端から端まで全てがきちんとしてる必要があるんだ。ことエンジニアリングに関しては、どの点もおろそかにしたりサボったりすることはできない。どのパイプの極小ディティールも完璧じゃなきゃダメで、例外なんてものはない。そして僕が苦心してるのはまさにそこなんだよ。

oldbriars: Alden Pipesはサンドブラスト・フィニッシュの良さで知られていますが、あなた自身もスムースパイプよりサンドブラストのほうが好きなんですか?

R:うん、僕はブラストのほうが好きだ。自分ではほとんどスムースパイプって買ったことがないんだよ。僕は自分のオウンパイプの扱いが雑だから、あんまり手入れが必要になる仕上げは向いてないんだよね(笑)。去年一年間、あんまりスムースパイプは作れなかったけれど、これからはもうちょっとスムースを増やせたらと思うよ。

――oldbriars:最後に、日本のパイプスモーカーにメッセージがあればお聞かせください。

R:もちろんあるよ!これまで僕のパイプを買ってくれた人には、コレクションに僕のパイプを加えてくれて有難う、って言いたい。日本のパイプスモーカーのみなさんは品質にとても敏感だよね。どれだけ有名かとか、高い値札がついてるかとかじゃなくって、その作品の本質を見てるんだ。これまで知り合いになれた人達に会いに、いつか日本に行けたらと思うよ。

そしてもうひとつ、僕のところには英語ができなくても気軽にメールして欲しいんだ。日本語メールでかまわない。Google翻訳だけじゃ厳しいかもしれないけれど、もしお互い話が通じなかったら、誰か翻訳できる人間を連れてくるからさ!

aldenpicture

ライアン・オールデン。

どうでしょう。名は体を表すと申しましょうか、ライアンのパイプは彼の言葉の簡潔な証明となっており、また彼の言葉は彼のパイプのなりたちの確かな裏付けになっていると思います。すなわち、

  • ・プロ作家になるという明確な目標をもってパイプ製作に取り組んでおり、そのために必要なことを貪欲に取り入れる姿勢がある
  • ・美しさより道具であるということを優先し、細部を最も重要だと考える製作思想
  • ・まず自分の作れるシェイプから、ひとつひとつ完璧さを目指すという堅実性
  • ・ラッド・デイヴィス、プリマル・チェダといった(やはり)華美さより道具としての完成度を優先する導き手の存在

まさに彼は自分の思い描くパイプを作っていることが、上記のパイプの写真からも解るのではないでしょうか。
大して更新もしないブログ(←ごめんなさい)でわざわざ1エントリを設けて紹介してることからも分かるように、ビル・シャロスキーがなかなかパイプを作れない状況にある現在、ライアン・オールデンは僕(oldbriars)のイチ押しのパイプ作家です。彼のインタビューにもあったように英語が苦手な人でも注文は大歓迎。サイトにはある程度吊るしのパイプもアップされていますが、細かな注文まで引き受けてくれるコミッション・スタイルでの受注がメインとなると思います。(支払いにはPayPalが簡単ですが、郵便為替、国際口座振込なども応相談でOKとのこと)納期も今のところそれほど長くはかからないと思います。

  • 価格(あくまで傾向ですので、正確には本人に見積をとってもらってください)
  • サンドブラスト、クラシックシェイプ 約270ドル~350ドル
  • サンドブラスト、スペシャルシェイプ 約400ドル~
  • スムース、クラシックシェイプ 約380ドル~

ライアンのウェブサイトはこちら
http://www.aldenpipes.com/

facebookのアカウントがあればさらにやりとりが簡単になるでしょう
https://www.facebook.com/ryanealden

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サドルステムの部位名称について

6月 8th, 2015

最近パイプメイキングをたしなむ友人・知人が増えてきました。そのことに関しては別に記事を立てるつもりですが、今日はそんな彼らとやりとりをしていて気づいた小ネタというか、提言というか。

それはサドルビット、サドルステムに関してです。このサドルという語、普通に訳すと馬の鞍、ということになるのでしょうが、馬のサドルにサドルステムとの形状の類似が見られないことから、おそらく自転車のサドル(シートというのが一般的らしい)のほうだと思います。このマウスピースから余計な部分をカットしたカタチを、自転車のサドルを上から見た姿になぞらえたものなのでしょう。

ところが、前述のパイプメイカーの方々と話しているうちに、このサドルステムの形状を云々するのに非常に不便を感じました。マウスピースはテーパードが普通で、部位の用語も(一応)揃っているのですが、サドルステムに関してはこの特異な形状の各部位を指す用語がないのです。英語圏の文献やネットでの会話も漁ってみましたが、サドルステム独自の部位名称というのは定まってないようです。

saddlebit

というわけで、図をごらんになっていただければ一目瞭然ですが、サドルステムを剣に見立てて、「ヒルト(柄)」「ブレード(刃)」「フランジ(鍔)」という語を使ってみてはどうかな、というお話です。よりスペシフィックには、「サドル・ヒルト」、「サドル・ブレード」、「サドル・フランジ」と言えば間違いが少ないのではないかと思います。…これは僕の独創というか、勝手にこう呼んだら便利じゃないの、という話ですので、どこかに典拠とか根拠とかがあるわけではありません。ただ必要とされるパイプメーカーとか、コレクターの間で便利に使っていただければ、ということに過ぎませんので悪しからず。

サドルステムにも、結構メーカーや作家での個性があるもので、たとえば一番分かりやすい例だと、Barlingにはたまに、Barlingクロスが打てないくらいに極端なショートヒルト(そう!こうやってスマートにあの部位を指示することができるのですよ!快感!!)のサドルビットがあります。ダンヒルは少なくとも1970年以前は、テーパーステムがメインのファクトリーで、サドルステムはモディファイヤ<6>のスタンプがついたテーパーステム・シェイプのバリエーションである、という位置づけでした。そのモディファイドなサドルステムはこれまたBarlingとは対照的に極端なロングヒルトで、独特の風格があります。作家さんと話していると、このサドル・ヒルトの切り方でずいぶんとシェイプの印象も変わってくるという話でした。このあたり、ここで提示された用語を使ってガンガン議論していけば、サドルステムの美の規範(ノルマ)などもできあがってくるのかもしれません。その一助までにこのエントリを書きました。

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琉球黒檀製タンパー

8月 2nd, 2014

沖縄黒檀タンパー

琉球黒檀製タンパー。下はアンボイナ・バール製シャロスキー・タンパー

先日Ye Olde Briarsの読者を名乗る方から一通のメールを頂きました。

以前サイトでグループオーダーしたビル・シャロスキーのカスタム・タンパーに関して、また発注する機会があったら是非とも参加したいという内容でしたが、ご存知の通りシャロスキーは目下ウン十本というコミッションを抱えて青息吐息の状態。たとえタンパーであってもこれ以上のオーダーはちょっと無理、という状況でしたので、そのときには現在追加発注の予定はない旨を返答しました。

しかし、せっかくサイトまでご連絡を頂いたのにありませんできませんと答えるだけなのも芸のない話です。もともとシャロスキー・タンパーのデザインをしたのは僕自身だったこともあり、シャロスキーのところでの製作は無理だが詳細な図面を提供するので、もし木工職人に心当たりがあればそちらに持ち込んでみてはいかが、とその読者の方には提案しておきました。

沖縄黒檀タンパー

落ち着いたたたずまい。

数週間後、僕の手元には写真の美しい黒檀製タンパーが届いていました。件の読者、W氏がご親切にも僕にも一本分けて下さったものです。W氏は沖縄在住のパイプスモーカーで、タンパーの図面を受け取るやすぐさま地元沖縄の木工工房を訪れ、こういった喫煙具の製作は可能か訊ねると同時に近傍の琉球三味線の工房で材料となった貴重な《琉球黒檀》の端材まで譲り受けていたというのですからその熱意には頭が下がります。

さてこの琉球黒檀タンパー、デザインについて触れると自画自賛になるのでやめておきますが、じつに素晴らしい出来です。製作を担当した沖縄の木工工房”crafty dove gallery”の亀井氏は「私の腕ではこれが限界」と仰ったそうですがなんのなんの。細部まで細かく作り込まれ、しばしばこのデザインで問題となったブレード部分の強度もしっかり確保してあります。《琉球黒檀》はとても目の詰まった硬い木で、僕の手持ちのアンボイナ・バール製のシャロスキー・タンパーよりもずっしりと重みがあります。デザインを提供したとはいえこのような良いものを頂いてしまい、W氏には再度お礼を申し上げたいと思います。

沖縄黒檀タンパー

細部は亀井氏の技が光る

単なる頂き物自慢のようになってしまったエントリですが、カスタム・タンパーに興味があるかたは沖縄県の木工工房 “crafty dove gallery”にコンタクトをとってみてはどうでしょうか。琉球黒檀は希少な素材のため、同じ素材での製作は難しいと思いますが、他の材を使ったものならばカスタムオーダーも可能なんじゃないかと思います。

crafty dove  gallery(クラフティー ダヴ ギャラリー)紹介
http://www.kahu.jp/life/gallery/20140417/index.jsp

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パイプフェスタin府中 2014

1月 9th, 2014

今年も2月16日(日)に、東京都府中においてパイプフェスタが開催されます。

パイプフェスタin府中 特設ページ

僕もYe Olde Briarsのブースを出展します。出展内容は、今年は大量のパイプを持っていくのはちょっと億劫なので、Comoy’sのExtraordinaireシリーズを展示しようかと考えています。

それに加え、このblogではおなじみのイギリスのブティック・タバコブレンダー、GQ Tobaccosを紹介いたします。GQのブレンドを皆さんにお試し頂けるよう何種類か展示する予定です。

近隣にお住まいのパイプスモーカーの方々のご来場をお待ちしております。

 

※なお、パイプフェスタin府中は入場者の入場料はおろか、ブースを出す出展者(プロ含む)の出店料も無料の、まさにスモーカーによるスモーカーのための素晴らしいイベントです。会場では運営資金への寄付を募っていますので、懐に余裕のある方(特に何万円もするハンドメイド・パイプを年に何本も買うリッチな方々!)は是非ご協力ください。僕はパイプフェスタの運営には関わっておりませんが、一人の自由を愛するスモーカーとしてYe Olde Briarsの読者の方々にご協力をお願い致します。尚、運営者のお一人臥煙堂さんによれば『企業様による協賛金などは大歓迎』とのことです(笑)

イギリスのパウチ物パイプタバコはあなどれない

12月 4th, 2013

ここ数年『グランド・オリエンタル』シリーズから『マチュアード・バージニア』シリーズ(茶色缶)、そしてある種究極の常喫用オリエンタル・ブレンドとも言える『オリエンタル・ミクスチャー』シリーズ(緑缶)を経て、<アメリカのクラフト・タバコの祖にして雄であるマクレーランドこそ究極の趣味的パイプタバコ・ブランド>という考えに落ち着いていたoldbriarsですが、最近になってちょっと風向きが変わってきました。

きっかけは最近お会いすることが多いきむぞうさん(http://ameblo.jp/kimuzo777/)より頂いた、ビンテージ缶のSt. Brunoで、これを吸ってみたところ「イギリスにもこんな深い味わいのバージニア・タバコがあるのか!」と目から鱗状態でした。ことバージニアに関してはサミュエル・ガーウィズの二大人気ブレンド(Full Virginia FlakeとBest Brown Flake)が個人的にあまりパッとせず(美味いことは美味いんですが…)、もうひとつの有名ブランド・ラットレーズのブレンドがどれも肌に合わなかった(ドイツ・コールハス製のタバコの独特の白粉臭?がダメ)ので、「英国タバコには大したバージニアブレンドがない」という固定観念にとらわれてしまっていたのですが、St.Brunoはそんな僕の蒙を啓いてくれたのです。St.Bruno自体は日本にもつい最近まで入ってきていたので、灯台下暗しといえばそうなのですが、創業時のマクレーランドが復刻を目指したという<古きよき英国産のバージニアブレンド>とは、実のところこのあたりのタバコのことを指していたのではないかと思うに至りました。

個人的にパウチ入りのタバコは安物の着香煙草ばかり、というイメージがあり、ガチの着香煙草が苦手な僕はパウチ入りたばこに変な先入観を持って遠ざけていたというフシもありました。慌てた僕は、
『―これはいけない、こんな美味いタバコがパウチという最も簡便なパッケージで売られているのは、イギリスのごく普通のスモーカーの味覚レベルというものはやはり尋常なものではなかったのだ、いや最もポピュラーで最も簡便であるからこそ、彼の国では最も優れた製品が要求されるのだ。イギリス侮りがたし。アメリカの趣味人の教養や熱意にはこのoldbriars、敬意を素直に表するが、それと同等の熱情がごく一般的な大衆の中に自然体で存在する英国こそやはりパイプスモーキングの本場であったか』
などとブツブツと考え、当然の仕儀としてイギリスのパウチ物パイプタバコをしこたま買い込むことと相成りました。

Manchester Tobacco “Revor Plug” (Gawith Hoggarth production)

revor plug

Revor Plug 50gパウチ入り。イギリスのショップでは10英ポンド前後で販売されている

GQ Tobaccosのウェブショップでまず僕の目を引いたのがこのRevor Plugです。本当に地味な、なんの変哲もないどうでもいいデザインのクリーム色のパッケージ。ただ僕が注視したのは、このタバコが現在は僕が絶大な信頼を置いている英国・ケンダルのガーウィス・ホガース社の生産になっているということでした。調べたところによるとこのRevorは英国中部の都市マンチェスターに存在したマンチェスター・タバコという会社のブランドで、会社は1990年代に日本のJTに買収されたあとに工場は閉鎖され、レシピがガーウィス・ホガースの手に渡っていまだに生産が続けられているようです。GQ Tobaccoの説明に従えばバージニア+ケンタッキーの葉組みに<レイクランド香>でわずかに着香されているそうで、グリン君の言によれば「地味~なタバコで英国でもそんなに出るタバコじゃないよ」とのことでした。

いざ現物が届いて吸ってみると、これが大・大・大・の大当たり!いままで体験したことのない味わいの素晴らしいタバコでした。馬鹿な表現ですが、素晴らしく甘く、素晴らしく深いだけでなく、フルーティで花の香りのレイクランド香の中毒性があり、まごうことなきガーウィス・ホガースのバージニアタバコと同じ深いハービーな熟成感と、そしてボトムには同社の一部のロープタバコに存在するオイリーさまでが存在しているのです。まさに上から下への味覚の饗宴で、『この味がこんなにも地味で安っぽいデザインのパウチの中に詰まっているのか!』とすっかり腰を抜かしてしまった僕は、上に記したイギリスのパウチタバコに対する疑惑(?)を確信に変えるにいたりました。イギリスのパウチ物はヤバイ。

revor plug

その名の通りプラグ形態。カットするにはナイフ等が必要だが、それほどプレスはガチガチというわけでもないので葉を剥がすようにして手でほぐすこともできる。このプラグの美しい光沢と漂うレイクランドの香りがまた味覚を駆り立てる

Ogden Walnut Flake (Orlik production)

ogden's walnut

Ogden Walnut 50gパウチ入り。こちらは英国らしい歴史を感じさせるデザイン。イギリスのショップでは12英ポンド前後で販売されている

次に試したのがこのOgden Walnut。Ogdenは英国リバプールに存在していた会社で、St.BrunoもこのOgdenの銘柄でした。ビンテージパイプ・コレクターの方々にはあのBarlingを買収した会社として聞き覚えがあるんじゃないかと思います。そのOgdenもImperial Tobacco傘下となり、1990年代までリバプールのファクトリーでの生産が続けられましたが、2007年に工場は閉鎖し、St.BrunoやこのWalnutの生産はデンマークのオーリック社に移っています。

ogden's walnut

パウチを開封すると、このようなカレールー(笑)を思わせる容器に封入されている。密閉度は高くパウチ形式で弱点となる長期間の保存も問題なさそう。

St.Brunoと同じ会社の銘柄ということで期待しながら吸ったのですが、このWalnutも素晴らしいタバコでした。僕の大好きなマクレーランド MV No.27を彷彿とさせるような、深く熟成したバージニアタバコですが、St.Brunoほど強いタバコではなく、もう少し気軽に吸える感じではあります。

僕は現行のオーリック製のダンヒルタバコが大嫌いで、My Mixture 965などは生産がOrlikに移ってから吸ったのち、二度と買うもんかと誓ったくらいだったので、オーリック社の生産であることに一抹の不安を覚えなくもなかったのですが、St.BrunoとこのWalnutはまるで別の会社が製造しているのではないかと思えるくらい美味しいタバコです。

結論として、イギリスのパウチ物パイプタバコには素晴らしい銘柄、それもちょっと他では見つからないような独自性と、年月に研磨された洗練が両立した銘柄があるのだと言わざるを得ません。他にも有名な銘柄がまだいくつかあるので、これから順次試していきたいと思っております。また、英国から買い付けることになるので価格は米国タバコや米国流通のイギリス製タバコよりも若干(というよりかなり)高めになります。このエントリを読んで購入される方はご利用は計画的に(笑)。英国タバコの購入には先日エントリで紹介したGQ Tobaccosが便利です。

revor plug

revorがあまりにも美味かったので調子に乗って追加購入。積めば積むほど心が豊かになるタバコ。

追記:Revor Plug を製造していたManchester Tobaccoという会社について調べてみたんですが、情報がほとんどありませんでした。分かったのはどうやらManchester TobaccoというのはイギリスCWS(共同卸売協会:生協のような組織)の煙草生産部門のようなものだったらしく、マンチェスターのルードゲイト・ヒルにはまだ当時のままのファクトリーの建物がそのまま残っています。ルードゲイト・ヒルの工場は1995年にトラッフォードに建てられた新工場によってとって替わられますが、オーナーであるJT(日本たばこ)の決定によりマンチェスター・タバコは売却が決定し、この新工場も2007年2月に閉鎖されています。こちらの建物は現在はEventCityというエギジビション・センターとなっています。CWSではRevor PlugのほかにMahogany Ready Rubbed、Centurion Mixture、Fulvous Mixture、Beechwood Cut Plugなどという銘柄を製造していたようです。往時の工場内の写真。

ブティック・タバコニストという選択

11月 17th, 2013

店内にずらりと並べられたブレンド用タバコのジャー。お客は自分の好みをブレンダーに伝え、その場で自分専用のブレンドを作ってもらう。出来のいいブレンドには番号が振られ、他人のブレンドを注文することも可能―こんなスタイルでパイプ煙草を供給するスタイルのタバコニストは、1980年頃までのイギリスでは珍しいものではありませんでした。かつてアルフレッド・ダンヒルの<消費材であるタバコを嗜好品にする>という思想のもとに始められたものですが、ロンドンのダンヒル本店でもこういったサービスをやらなくなって久しい時間が流れています。イギリス国内でもオリジナル・ブレンドを置いているタバコ店は非常に少なくなってしまいました。

GQ Tobaccos by Glynn Quelch

gqtobaccos

そんな淋しい風潮のなか、イングランド中部の街ノッティンガムで、新たにインターネットベースのタバコニストを開業したパイプ煙草ブレンダーがいます。グリン・クェルチ(Glynn Quelch)君30歳。地元ノッティンガムのタバコニスト、『ゴントレーズ』で9年間タバコブレンディングの技を磨いたあと、今年からノッティンガム郊外の自宅でタバコニストを起業しました。それがこの項で紹介するGQ Tobaccos(http://www.gqtobaccos.com/)です。

「何故独立したかって?僕はタバコを使って色んなブレンドを作ってみたかった。実験的なやつもね。新しい何かを作るのが僕の長い間の夢だったのさ。だけど店のオーナーは僕にそんな贅沢を許してくれなかった。だから辞めたんだ。そのおかげで、僕はあそこ(ゴントレーズ)で作っていた僕の傑作ブレンドのいくつかを、もう自分で売ることはできなくなっちゃったけどね。今頃あのオーナーが地団駄踏んで悔しがってるといいなと思うし、そうなるようにGQ Tobaccoを盛り上げるつもりだよ。』とはグリン君の弁。

Glynn Quelch

グリン・クェルチ君30歳。タバコどんだけ好きなのとツッコミたくなる写真。

グリン君のブレンダーとしての腕は確かなもので、『ゴントレーズ』の人気オリジナル・ブレンドのいくつかはグリン君の手によるものだそうです。クラシックなブレンドだけでなく、野心的で実験的な、今まであまり見たことのない葉組のブレンドも手がけています。現在10種類ほどのオリジナル・ブレンドをウェブサイトにラインナップしていますが、グリン君は自らのブレンドを<ブティック・パイプタバコ>と名づけ、昔日のタバコニストのように顧客の好みに応じた完全カスタマー・オリジナルのブレンドを誂えることをプライドとしています。また、既存のオリジナル・ブレンドも、要望を伝えてもらえれば微妙にトゥウィーク(調整)したものを発送することもできるとのこと。実際にもイギリスのハンドメイドパイプ作家、クリス・アスクウィズや、とあるイギリスの政治家などのために特注のオウン・ブレンドをブレンドしているそうです。

この他にサミュエル・ガーウィズやガーウィズ・ホガースなどのブランドのパイプタバコや、前述したクリス・アスクウィズのハンドメイド・パイプを含むパイプ・パイプ用品も販売しています。特にパイプタバコは日本にはあまり輸入されなくなってしまったセント・ブルーノなどを含む、アメリカ経由では入手できないタバコもいくつか販売しています。英国国内の価格なのでアメリカ経由で買うより値段は高め(1.5倍程度)ですが、日本では馴染みのない銘柄やグリン君のオリジナル・ブレンドを購入するのに利用してみてはどうでしょうか。日本からはクレジットカードで支払いが可能です。

以下僕が試してみたGQ Tobaccosオリジナルブレンドに関していくつか短評を。

GQ Blends “Classic English”

–Virginia, Kentucky, Brown Cavendish, Kentucky, Latakia & Cigar Leaf
「クラシック」という名前とは裏腹に、グリン・クェルチのモダンな一面が表出されたブレンド。GQ Tobaccosではこのブレンドをイングリッシュ・ミクスチャのフラッグシップ・ブレンドと位置づけている。バージニアのフルーティさが強調された珍しいタイプのイングリッシュ・ミクスチャで、シガーリーフが味の複雑性に一役買っている。ラタキアはオーバーパワーではなく非常にスムースなブレンド。ガーウィズ・ホガースのBalkan Mixuture(缶入り)を彷彿とさせるがあれよりももっと複雑。

GQ Blends “Classic Balkan (Izmir)”

–Virginia, Kentucky, Turkish & Latakia
<バルカン>を名前に冠するパイプタバコは多いが、それらはその実ラタキアをフィーチャーしたヘビー・ラタキアブレンドが大半で、本物のバルカン・スタイルのブレンドは非常に数が限られている。こちらはClassic Englishとはうって変わってトラディショナルなバルカン・ブレンド。ラタキアのスモーキーさ、バージニアの甘さはどちらも控えめになっており、Izmir(オリエンタル葉の一種)のナッティな甘さが前面に押し出されている。抑制的でおだやかな味わいなので(バルカン・ソブラニがそうだったように)常喫にも向いている。もちろんソブラニの代替品としてもおすすめ。

GQ Blends “Swamp Flower”

–Virginia, Kentucky, Turkish & Perique
グリン・クェルチ流VaPer(バージニア+ペリク)。ペリクは柑橘感を出すよりもブレンド全体のコク・深みを出すために作用しているが酸味も十分。Gawith Hoggarthのロープ系煙草をベースに使用していると思われるが、そのためもあってか非常な熟成感とリフレッシュ感のある酸味を同時に味わうことができる。オリエンタルとケンタッキーも少量ブレンドされているため、VaPerとしての純度は他のブレンドに譲るが、その代わりに蟲惑的といってもいいような複雑さを実現している。Peter HeinrichsのCurlyが好きな人や、現行のスリーナンズには熟成感が足りない、と思っているスモーカーにはうってつけ。個人的にはベストVaPer3指に入るブレンド。かなり強い煙草なのでニコチン酔いには注意。oldbriarsのおススメ銘柄です。

GQ Blends “Sugar & Spice”

–Virginia, Black Cavendish & Turkish
グリン・クェルチの冒険心がフィーチャーされたアロマティック。ブレンダーはあまりアロマティックを好まないそうで、「着香煙草が嫌いなスモーカーでも常喫できるアロマティック・ブレンドは可能か」がテーマだそう。オリエンタル葉(Izmir)がブレンドのベース煙草となっている極めて珍しいブレンド。イズミルのナッティなスパイシーさが”Spice”、甘くて美味しそうなナツメグ・シナモンの香りが”Sugar”ということなのだろう。オリエンタル好きなら一度はトライしてもらいたい野心的なブレンド。

下の動画は新作”BurPer Kake”の製作過程の模様。ハンドブレンド&ハウスプレス!!

 

追記。GQ Tobaccosで売られているJ.F.Germainの”Rich Dark Flake”はEsoterica “Stonehaven”のイギリス国内流通バージョンだそうです。僕も吸ってみましたがおだやかで極めてリッチ、ちょっとだけチョコレートっぽいノートが感じられる素晴らしいバージニアフレイクでした。Esotericaの煙草はひどい品薄状態が長く続いているので、少々値は張りますがStonehavenのファンの方はイギリス経由での購入もアリかと思います。

追記2。GQ Blendsを吸ってみた方の感想(随時追加していくかも。)

@mortalizさん
-GQ Blend Classic Balkan
「GQ Classic Balkan 金のゆるす限り買いたい。」「キック強力。ニコチンも似た構成のブレンドと比べて格段に強いが、味が素晴らしい。まじで親密さの中で世界が止まる。時間が空間になる。とにかく凄いよ!GQ Classic Balkan」「昨日のチェダ、今日のES(編注:ビル・シャロスキー作 Eye Scorcher)と、二回続けて喫煙体験として素晴らしいです。ヘヴンです。超気に入りました。」

杜塚さん
-GQ Blend Classic English
「GQ Classic English はきわめて複雑なブレンドだと思う。かなり強烈なスパイシー、スモーキーな喫味、甘味、清涼感、後を引く煙草感、ナッツやシナモンのニュアンス、などなどが絡み合い、吸うたびに味が変わるように感じられるほど。そして、どの瞬間も文句なく美味い。」「ただ、流して吸うと、その複雑さの奥から湧き出てくる美味さに気づきにくいかもしれない。一定の集中というか、吸ってる人間の側から積極的に煙草に対してアプローチすることが求められる、という意味でGLPのブレンドに近いように感じる。」
-GQ Blend Sugar & Spice
「GBD Pedigree 1451 で GQ Sugar & Spice」「アンフォーラにも似た穏やかな着香と甘さがまず最初に来て、その背後には山椒を思わせるようなピリッとした風味がある。そして、中盤から終わりにかけてスパイシーさが高まっていく、といった具合。まさにシュガー&スパイス。着香の塩梅は絶妙で、ド着香でも微着香でもない。」「ハードコアなアンチ着香スモーカーのための着香煙草、との説明通りのブツでした。これも実に美味い。分かりやすさと適度な軽さ、味の変化があって、こういうのを常喫用というんだろうなあ、という感じ。それにしても、GQの使うオリエントは相当スパイシーだなあ、という印象を受ける。」
-GQ Blend Classic Balkan
「GQ Classic Balkan が届いたので吸う。これは、パイプ煙草はどのようにあるべきか、という問いに対する解答の一つになりうるブレンドだと思います。」「GQ Classic Balkan はマクレー緑缶8番にラタキアを積み増した、といった印象。オリエントのスパイシーな甘味とエキゾチックな香りが前面に出ていて、その裏にラタキアの薫香が消えたり現れたりする。Classic English と対照的にシンプルで、ディープ。」「ヘヴィではなく、むしろ軽やかな煙草だと思う。なので本読んだり音楽聴いたりする妨げに全然ならない一方で、味と香りに意識を向けると果てしなくディープというかドープなところに意識がずるずると滑り落ちて行くような感じもする。嗜好品としての煙草の美味さと危険さが凝縮されている。」

@satoh_toshiさん
-GQ Blend Classic English
「今、Classic English を吸ってるんですが、序盤はシガーリーフの味(ナッティー?)が特徴的で、中盤では、フルーティーが前に来たり、混ざり合ったり、美味しいですね〜^ ^」「自分は、最初「何か違う」と感じて、obさんのブログを読み直して、納得しながら、ニヤニヤしながら吸ってます^ ^」「自分のような、初級者でも、「ブレンドの妙」を素直に感じられるってのは、ありがたいタバコですね^ ^ 是非お試し下さいませ。」