続・よいパイプとは何か

6月 11th, 2013

前回の記事(「よいパイプとは何か」)は<よいパイプとはコントロール性の良いパイプのことである>と結論しながら、ではそのコントロール性の良いパイプとは何かということに触れておらず、読者の方々にストレスを感じさせる内容でした。今回はよいパイプの具体的な要件について考えてみたいと思います。

「煙のカタチ」

本題に入る前に前提として、「煙のカタチ」の話を少し。シガーを吸われる方なら誰もが一度はやったことがあるはずだと思います。《葉巻の吸いさしをパイプに差して吸う・もしくは葉巻の葉を細かく解してパイプで吸う》というやつ。期待通りの味になりましたか? 多分ほとんど全ての人が『こんなの全然葉巻の味じゃない!』と、パイプで葉巻を吸うことの無意味さを悟ったと思います(葉巻がああいった形で、ああいった方法で吸われる理由ですね)。不思議なもので同じものを燃やしているはずなのに全く味が違う。これはシガーの吸い口から直接口内に入ってくる煙と、パイプの中を通って口に届く煙のカタチが異なるからです。同じ葉巻の煙が、パイプのボウルを通りボウルボトムで90度曲がり、煙道を通りステムを通りリップスロットで平らな形になるうちに、すっかり別の味に変化してしまう。煙草の煙とは僕らが考えている以上に繊細なもので、その流体?としてのカタチが変化させられると味まで変わってしまうらしいのです。同じことは例えばシガレットに空気撹乱型のヤニ取りホルダーをつけた時にも言えます。つまり煙草の煙を最も良く、ありのまま味わうためには、できる限りこの「煙のカタチ」に影響を与えないようにしてスモーカーの口に届ける必要があるのです。

エアフローの概念

このときに重要になってくるのが「エアフロー理論」という概念です。この概念は「In Search of Pipe Dreams」の著者であるリック・ニューカム氏がいまから10年ほど前に提唱したもので、アメリカのパイプコレクター団体NASPCの機関紙である「Pipe Collector」誌に掲載されたケン・キャンベル氏の記事よって広まったものです。要約すると美味いパイプには共通点があり、そのキーとなっているのは滑らかなエアフロー(空気の通りかた)である、というものです。つまり前述した「煙のカタチ」に影響を及ぼさない空気の通り方、これが良いエアフローであるというわけです。(現在ではエアフロー理論を重視することは北米のパイプ作家たちの間でほぼ必須となっており、この理論に忠実にパイプを製作していることを売りにしている作家も数多く存在しています。)

良好なエアフローを実現するには、いくつかのポイントがあります。

1 煙道の太さ

ボウルからシャンクを通る煙道の太さ。この直径が太ければ太いほど煙はスムースに流れます。あまりに太いと煙草の葉が煙道内に入ってしまうので、上限はあります。大体3.5mmから4.5mmぐらいがエアフローを保障しつつ実用的な煙道径だと考えられています。

2 リップスロットの容量

リップスロット(マウスピースの終端部で、平らに切られている煙道の出口)も非常に重要です。どんなに煙道径が太いパイプでも、この終端部の出来が悪いと良いエアフローは実現できません。リップスロットはできるだけ深く、V字状になってマウスピースの奥に向かって切り込まれ、滑らかに煙道と接続している必要があり、その空間の厚みも上下に大きければより有利になります。マウスピースのビット部分(歯でバイトする部分)の薄さを確保しながらVスロットの容量を広げるのは脳外科手術にも似たスキルを要求するもので、パイプメーカーにとって非常に手間と時間が必要とされる作業になっています。十分に広く深いVスロットは、太い煙道から流れ出る煙を阻害せず、また口中に柔らかに煙を広げる機能もあります。パイプ全体の長さから言えばほんの1インチ程度の部分ですが、エアフローの良し悪しを最終的に決定付ける部分です。

マイケル・リンドナーのリップスロット

マイケル・リンドナー(米)作のパイプのリップスロット。開口部の巨大さが目を惹くが、その深さはなんと1インチにも達する。

3 スムーズな流体移動

シャンク内に大きな突起やズレがあれば、良いエアフローの障害となるばかりか、結露が生じてガーグリング(水滴がゴボゴボと音を立てる不快な現象)を起こしたり、汚れが蓄積されたりして問題すら生じます。ジャンクション(シャンクとステムの接合部)内部には、できるだけギャップが少なく、煙が衝突する突起などがないことが理想的です。このためにパイプ作家は、モーティス(いわゆるダボ穴)の底にテノン(いわゆるダボ)とのギャップ(テノンギャップ)ができないように注意したり、テノン開口部にベベル(面取り)を施したり、パイプ内煙道とシャンク内煙道が同一軸上にアサインされること(煙道アラインメント)に注意を払ったりしています。

ベベルされたテノン

ベベル(面取り)されたテノンの一例。煙が滑らかにテノン内に進入できるようになっている。ブライアン・ルーセンバーグ(米)。

このエアフロー理論に忠実に製作されたパイプが必ずしも<美味いパイプ>になるとは限りませんが、少なくとも<快適なパイプ>にはなります。エアフローの良さはそのまま前回の記事で触れたコントロール性に繋がるのです。エアフローに優れたパイプは喫煙中のインフォメーションをスモーカーに忠実に伝達するため、初心者でも使いやすく、また喫煙技術の上達を助けます。ベテランにとってもストレスがなく使うのが楽しいパイプになることは間違いありません。

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