ブティック・タバコニストという選択

11月 17th, 2013

店内にずらりと並べられたブレンド用タバコのジャー。お客は自分の好みをブレンダーに伝え、その場で自分専用のブレンドを作ってもらう。出来のいいブレンドには番号が振られ、他人のブレンドを注文することも可能―こんなスタイルでパイプ煙草を供給するスタイルのタバコニストは、1980年頃までのイギリスでは珍しいものではありませんでした。かつてアルフレッド・ダンヒルの<消費材であるタバコを嗜好品にする>という思想のもとに始められたものですが、ロンドンのダンヒル本店でもこういったサービスをやらなくなって久しい時間が流れています。イギリス国内でもオリジナル・ブレンドを置いているタバコ店は非常に少なくなってしまいました。

GQ Tobaccos by Glynn Quelch

gqtobaccos

そんな淋しい風潮のなか、イングランド中部の街ノッティンガムで、新たにインターネットベースのタバコニストを開業したパイプ煙草ブレンダーがいます。グリン・クェルチ(Glynn Quelch)君30歳。地元ノッティンガムのタバコニスト、『ゴントレーズ』で9年間タバコブレンディングの技を磨いたあと、今年からノッティンガム郊外の自宅でタバコニストを起業しました。それがこの項で紹介するGQ Tobaccos(http://www.gqtobaccos.com/)です。

「何故独立したかって?僕はタバコを使って色んなブレンドを作ってみたかった。実験的なやつもね。新しい何かを作るのが僕の長い間の夢だったのさ。だけど店のオーナーは僕にそんな贅沢を許してくれなかった。だから辞めたんだ。そのおかげで、僕はあそこ(ゴントレーズ)で作っていた僕の傑作ブレンドのいくつかを、もう自分で売ることはできなくなっちゃったけどね。今頃あのオーナーが地団駄踏んで悔しがってるといいなと思うし、そうなるようにGQ Tobaccoを盛り上げるつもりだよ。』とはグリン君の弁。

Glynn Quelch

グリン・クェルチ君30歳。タバコどんだけ好きなのとツッコミたくなる写真。

グリン君のブレンダーとしての腕は確かなもので、『ゴントレーズ』の人気オリジナル・ブレンドのいくつかはグリン君の手によるものだそうです。クラシックなブレンドだけでなく、野心的で実験的な、今まであまり見たことのない葉組のブレンドも手がけています。現在10種類ほどのオリジナル・ブレンドをウェブサイトにラインナップしていますが、グリン君は自らのブレンドを<ブティック・パイプタバコ>と名づけ、昔日のタバコニストのように顧客の好みに応じた完全カスタマー・オリジナルのブレンドを誂えることをプライドとしています。また、既存のオリジナル・ブレンドも、要望を伝えてもらえれば微妙にトゥウィーク(調整)したものを発送することもできるとのこと。実際にもイギリスのハンドメイドパイプ作家、クリス・アスクウィズや、とあるイギリスの政治家などのために特注のオウン・ブレンドをブレンドしているそうです。

この他にサミュエル・ガーウィズやガーウィズ・ホガースなどのブランドのパイプタバコや、前述したクリス・アスクウィズのハンドメイド・パイプを含むパイプ・パイプ用品も販売しています。特にパイプタバコは日本にはあまり輸入されなくなってしまったセント・ブルーノなどを含む、アメリカ経由では入手できないタバコもいくつか販売しています。英国国内の価格なのでアメリカ経由で買うより値段は高め(1.5倍程度)ですが、日本では馴染みのない銘柄やグリン君のオリジナル・ブレンドを購入するのに利用してみてはどうでしょうか。日本からはクレジットカードで支払いが可能です。

以下僕が試してみたGQ Tobaccosオリジナルブレンドに関していくつか短評を。

GQ Blends “Classic English”

–Virginia, Kentucky, Brown Cavendish, Kentucky, Latakia & Cigar Leaf
「クラシック」という名前とは裏腹に、グリン・クェルチのモダンな一面が表出されたブレンド。GQ Tobaccosではこのブレンドをイングリッシュ・ミクスチャのフラッグシップ・ブレンドと位置づけている。バージニアのフルーティさが強調された珍しいタイプのイングリッシュ・ミクスチャで、シガーリーフが味の複雑性に一役買っている。ラタキアはオーバーパワーではなく非常にスムースなブレンド。ガーウィズ・ホガースのBalkan Mixuture(缶入り)を彷彿とさせるがあれよりももっと複雑。

GQ Blends “Classic Balkan (Izmir)”

–Virginia, Kentucky, Turkish & Latakia
<バルカン>を名前に冠するパイプタバコは多いが、それらはその実ラタキアをフィーチャーしたヘビー・ラタキアブレンドが大半で、本物のバルカン・スタイルのブレンドは非常に数が限られている。こちらはClassic Englishとはうって変わってトラディショナルなバルカン・ブレンド。ラタキアのスモーキーさ、バージニアの甘さはどちらも控えめになっており、Izmir(オリエンタル葉の一種)のナッティな甘さが前面に押し出されている。抑制的でおだやかな味わいなので(バルカン・ソブラニがそうだったように)常喫にも向いている。もちろんソブラニの代替品としてもおすすめ。

GQ Blends “Swamp Flower”

–Virginia, Kentucky, Turkish & Perique
グリン・クェルチ流VaPer(バージニア+ペリク)。ペリクは柑橘感を出すよりもブレンド全体のコク・深みを出すために作用しているが酸味も十分。Gawith Hoggarthのロープ系煙草をベースに使用していると思われるが、そのためもあってか非常な熟成感とリフレッシュ感のある酸味を同時に味わうことができる。オリエンタルとケンタッキーも少量ブレンドされているため、VaPerとしての純度は他のブレンドに譲るが、その代わりに蟲惑的といってもいいような複雑さを実現している。Peter HeinrichsのCurlyが好きな人や、現行のスリーナンズには熟成感が足りない、と思っているスモーカーにはうってつけ。個人的にはベストVaPer3指に入るブレンド。かなり強い煙草なのでニコチン酔いには注意。oldbriarsのおススメ銘柄です。

GQ Blends “Sugar & Spice”

–Virginia, Black Cavendish & Turkish
グリン・クェルチの冒険心がフィーチャーされたアロマティック。ブレンダーはあまりアロマティックを好まないそうで、「着香煙草が嫌いなスモーカーでも常喫できるアロマティック・ブレンドは可能か」がテーマだそう。オリエンタル葉(Izmir)がブレンドのベース煙草となっている極めて珍しいブレンド。イズミルのナッティなスパイシーさが”Spice”、甘くて美味しそうなナツメグ・シナモンの香りが”Sugar”ということなのだろう。オリエンタル好きなら一度はトライしてもらいたい野心的なブレンド。

下の動画は新作”BurPer Kake”の製作過程の模様。ハンドブレンド&ハウスプレス!!

 

追記。GQ Tobaccosで売られているJ.F.Germainの”Rich Dark Flake”はEsoterica “Stonehaven”のイギリス国内流通バージョンだそうです。僕も吸ってみましたがおだやかで極めてリッチ、ちょっとだけチョコレートっぽいノートが感じられる素晴らしいバージニアフレイクでした。Esotericaの煙草はひどい品薄状態が長く続いているので、少々値は張りますがStonehavenのファンの方はイギリス経由での購入もアリかと思います。

追記2。GQ Blendsを吸ってみた方の感想(随時追加していくかも。)

@mortalizさん
-GQ Blend Classic Balkan
「GQ Classic Balkan 金のゆるす限り買いたい。」「キック強力。ニコチンも似た構成のブレンドと比べて格段に強いが、味が素晴らしい。まじで親密さの中で世界が止まる。時間が空間になる。とにかく凄いよ!GQ Classic Balkan」「昨日のチェダ、今日のES(編注:ビル・シャロスキー作 Eye Scorcher)と、二回続けて喫煙体験として素晴らしいです。ヘヴンです。超気に入りました。」

杜塚さん
-GQ Blend Classic English
「GQ Classic English はきわめて複雑なブレンドだと思う。かなり強烈なスパイシー、スモーキーな喫味、甘味、清涼感、後を引く煙草感、ナッツやシナモンのニュアンス、などなどが絡み合い、吸うたびに味が変わるように感じられるほど。そして、どの瞬間も文句なく美味い。」「ただ、流して吸うと、その複雑さの奥から湧き出てくる美味さに気づきにくいかもしれない。一定の集中というか、吸ってる人間の側から積極的に煙草に対してアプローチすることが求められる、という意味でGLPのブレンドに近いように感じる。」
-GQ Blend Sugar & Spice
「GBD Pedigree 1451 で GQ Sugar & Spice」「アンフォーラにも似た穏やかな着香と甘さがまず最初に来て、その背後には山椒を思わせるようなピリッとした風味がある。そして、中盤から終わりにかけてスパイシーさが高まっていく、といった具合。まさにシュガー&スパイス。着香の塩梅は絶妙で、ド着香でも微着香でもない。」「ハードコアなアンチ着香スモーカーのための着香煙草、との説明通りのブツでした。これも実に美味い。分かりやすさと適度な軽さ、味の変化があって、こういうのを常喫用というんだろうなあ、という感じ。それにしても、GQの使うオリエントは相当スパイシーだなあ、という印象を受ける。」
-GQ Blend Classic Balkan
「GQ Classic Balkan が届いたので吸う。これは、パイプ煙草はどのようにあるべきか、という問いに対する解答の一つになりうるブレンドだと思います。」「GQ Classic Balkan はマクレー緑缶8番にラタキアを積み増した、といった印象。オリエントのスパイシーな甘味とエキゾチックな香りが前面に出ていて、その裏にラタキアの薫香が消えたり現れたりする。Classic English と対照的にシンプルで、ディープ。」「ヘヴィではなく、むしろ軽やかな煙草だと思う。なので本読んだり音楽聴いたりする妨げに全然ならない一方で、味と香りに意識を向けると果てしなくディープというかドープなところに意識がずるずると滑り落ちて行くような感じもする。嗜好品としての煙草の美味さと危険さが凝縮されている。」

@satoh_toshiさん
-GQ Blend Classic English
「今、Classic English を吸ってるんですが、序盤はシガーリーフの味(ナッティー?)が特徴的で、中盤では、フルーティーが前に来たり、混ざり合ったり、美味しいですね〜^ ^」「自分は、最初「何か違う」と感じて、obさんのブログを読み直して、納得しながら、ニヤニヤしながら吸ってます^ ^」「自分のような、初級者でも、「ブレンドの妙」を素直に感じられるってのは、ありがたいタバコですね^ ^ 是非お試し下さいませ。」

2 Responses to ブティック・タバコニストという選択

  • mortaliz より:

    Revor PlugとSt. Bruno目当てにGQ Tobbacosを利用し、そのついでにGQブレンドをいくつか買ってみたのですが、僕にとっては期待を遙かに上回るものでした。特にClassic Balkanは、自分でも異常かと思うほどに気に入りました。喫煙体験の悦楽の全てというか、陶酔的思索と区別のつかない喫煙というか、宗教的経験一歩手前というか…ハマる可能性のある人全てに喫ってもらい、ハマってもらいたい銘柄です。
    もともと僕はGH(ガーウィズ・ホガース)のVaが大好きでしたが、あの特徴的なVaを使って更に独自な物を作り出す事に成功していると思います。
    このブレンダー、グリン君はまだ若くこれからまさに全盛期を迎えるところというのも素晴らしい。大注目ですね。

    • oldbriars より:

      >mortalizさん

      グリン君が扱うブレンドベース煙草はGawith Hoggarthだけというわけではないみたいですが、いくつかのブレンドでGH臭がかなり漂っているのは確かですね。最近はラタキアものをほとんど吸うことがないのですが、Classic Balkanのようにラタキアがオーバーパワーでなく、その代わりとして他の部分の深みがある煙草は実に有難いです。<バルカンブレンド=ヘビーラタキアブレンド>と誤解してる多くの人に、本物のバルカンのイージーゴーイングでなおかつ深い味わいを是非このブレンドで経験してもらいたいです。

      僕の方はSwamp Flowerにヤラれています…ぼくの宗教体験はこちらのほうですねw Esoterica DunbarとかG.L.P StratfordのようなストレートフォワードなVaPerも美味いし、VaPerとしての純度はアチラのほうが上だとは思いますが、少々加えられたオリエンタルと、グリン君得意のケンタッキー使いによって、並みのVaPerが持ち得ない複雑で猥雑で思索的な煙が現前してきます。これにちょっとオリエンタルの量を増やすTweakをしたら、さらにヤバいVaPerOrになりそうで、今度カスタムブレンドをオーダーしてみようかとも考えています。

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